公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2019.02.04 (月) 印刷する

米本土防衛レーダーの日本配備推進を 太田文雄(元防衛庁情報本部長)

 1月28日付の読売新聞報道によれば、米国を狙った大陸間弾道ミサイル(ICBM)への迎撃を強化するため、米政府が米本土防衛レーダー(Homeland Defense Radar-HDR-)を2025年までに日本に配備したい意向を持っているという。1月21日付の「今週の直言」欄にも書いたが、中国、ロシア、北朝鮮という弾道ミサイル発射国のより近くにレーダーや迎撃システムを配備すればするほど、防護範囲は拡大するので、米国の要求は当然のことと言える。

 ●中国が早速、猛烈に反応
 読売報道直後の31日に、中国共産党機関紙の人民日報が英語版で面白い漫画を掲載した。米国が、韓国人に終末高高度防衛ミサイル(THAAD)という荷物を背負わせ、侍の格好をした日本人にはHDRという荷を背負わせようとしている図である。
 中国にしてみれば、自国のICBMを無力化するような防衛レーダーが日本に配備されることは嫌に違いない。1990年代後半に、米国の弾道ミサイル防衛システムを日本が共同開発しようとした時、中国が猛烈に反対した時と酷似している。
 しかし、あれだけ猛烈に反対しながら、中国は独自の弾道ミサイル防衛システムを開発し、ちゃっかり2010年に試験しているのである。要するに「自国はやっても良いが、他国はダメ」ということだ。国際社会では通用しないことを中国はやっている。
 中国は2月1日、ポンペオ米国務長官が発表した中距離核戦力(INF)条約脱退にも遺憾の意を表明した。だいたい中国の主張と真逆のことをやっていれば我が国の安全保障は保たれるという皮肉がある。

 ●日本は嫌がらせに屈するな
 韓国に対するTHAAD配備受け入れへの中国の嫌がらせは、並大抵なものではなかった。中国では、ロッテや現代グループなどの韓国製品の不買運動が起こり、中国在住の韓国人が被害者となる犯罪件数が倍増した。
 日本がHDR配備を受け入れたら、おそらく同じことが起こる可能性がある。しかし米国に協力するのか、中国の圧力に屈するのかの踏み絵を迫られれば答えは自ずと決まっている。日本の国益に照らし合わせても、中露朝の核・ICBMに対して米国の拒否的抑止力を高めることは、核の傘を米国に依存している日本にとって安全保障上望ましい。
 米本土に向かうICBMの軌道は北極圏を経由するので、日本国内と言っても北部地域に配備されるであろうが、「HDRは真っ先に攻撃の対象になる」といった国内外の脅しには屈するべきではない。