公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

太田文雄

【第567回】トランプ大統領と米戦略文書との乖離

太田文雄 / 2019.01.21 (月)


国基研企画委員兼研究員 太田文雄

 

 1月中旬、米国防総省から三つの文書が公表された。『中国の軍事力』(China Military Power)、『中国の拡大する地球規模のアクセスに対する米国防衛の意味合い評価』(Assessment on U.S. Defense Implications of China’s Expanding Global Access)、そして『ミサイル防衛見直し』(Missile Defense Review)である。『中国の軍事力』は国防情報局(DIA)による純然たる現状分析であるが、他の2文書は米戦略に影響する。この2文書に書かれている戦略とトランプ大統領の言動との間に、同盟関係の扱いで明白な乖離が認められる。

 ●同盟関係強化の記述
 『中国の拡大する地球規模のアクセスに対する米国防衛の意味合い評価』は2018年会計年度の国防権限法で発行が義務づけられた報告書である。『中国の軍事力』に比べて、軍以外のグローバルな中国の影響力についても書いている。
 とりわけ、中国が海外で初の軍事基地を設けたアフリカ北東部のジブチ以外に、カンボジアや南太平洋のバヌアツに基地を新設する関心を示したことや、「デジタル・シルクロード」として次世代通信規格「5G」の分野に手を伸ばしていること、外国メディアや旅行客のコントロールを通じて影響力を強めていること等が書かれている。
 本報告書は、米国の『国家防衛戦略』が掲げた3項目の対応を紹介しているが、その2番目に同盟国との関係強化が入っている。本報告書は2018年12月の作成となっていることから、同盟関係を重視したマティス前国防長官の時代に書かれたものであることが分かる。

 ●基調異なる大統領発言
 『ミサイル防衛見直し』には、防護や協力の対象に同盟国やパートナーが出てくる。終末高高度防衛ミサイル(THAAD)は韓国に、陸上のイージス・システムはルーマニアやポーランドといった北大西洋条約機構(NATO)加盟国にそれぞれ配備されている。これはミサイル発射国のより近くにレーダーや迎撃システムを配備すれば、防護範囲は拡大するという地理的利点があるからだ。また中ロが開発中の極超音速ミサイルに対して、F35戦闘機やレーザー兵器によるブースト・フェーズ(発射直後の上昇段階)での迎撃も同盟国に前方展開する基地があって初めて可能になる。
 しかるにトランプ大統領は、昨年6月の米朝首脳会談後に在韓米軍撤退の可能性に触れ、また最近の報道によれば、米国のNATO離脱をほのめかす発言もあったとされる。そうした発言と上記戦略文書の基調は明らかに異なっている。
 筆者は昨年2月13日の本欄で、2017年末に出された米国の『国家安全保障戦略』はトランプ大統領の巻頭言を除いて極めて堅実だと書いた。同文書が「現状変更勢力」と認定した中国とロシアの両方に米国一国だけで対抗することは難しい。国防総省の実務者が描く戦略とトランプ大統領の頭の中が一致することを切に願いたい。(了)