トランプ米政権が昨年12月に公表した「国家安全保障戦略」(NSS)、今年1月の「国家防衛戦略」(NDS)、そして今月の「核態勢見直し」(NPR)という一連の戦略文書を総括してみると、トランプ大統領自身が署名したNSSの巻頭言を除けば、中長期的視野に立った極めて堅実な戦略体系になっていると言える。
●NSS巻頭言の問題点
トランプ大統領のNSS巻頭言の問題点を列挙するなら、第一に米国第一主義を掲げていること、第二に中露を「ライバル国」として名指しせず、現状変更勢力という位置づけも回避したこと、第三に経済再生を公約のトップに掲げ、これまで世界をリードしてきた自由・民主主義や人権といった価値観の普及を後回しにしていることである。
第一の点は「自国を犠牲にしてまで同盟国を守ろうとしない」というデカップリングの懸念を同盟国内に引き起こす結果をもたらし、第二の点はNSSの巻頭言と、中露を安全保障上の第一の懸念と位置付けるNSS本文、NDS、NPRとの一貫性に疑念を持たれ、第三の点はトランプ大統領が経済的な取引を優先させ、価値観を共有していない中露の言いなりになる危険性をはらんでいる。
NSS巻頭言のこうした問題点は、トランプ大統領本人の戦略意識の欠如に起因するものであろう。トランプ大統領は1月末の一般教書演説でも、中露には「ライバル国」としてさらりと触れただけだった。
NSS本文、NDS、NPRを一貫して読めば、安全保障をつかさどる当局者が中長期的視野に立って極めて堅実な政策を推進しようとしていることが読み取れる。特にNPRは「核なき世界を目指す」などとする実現可能性の低い理想論を排し、同盟国防衛のため拡大抑止を強化していこうとする現実主義をうかがわせる。
●体系的な戦略文書発表
トランプ政権の戦略文書の出し方を過去の政権と比較すると、整然と体系的に発表していることが分かる。
本来、NSSを受けて一連の下位文書が順に出されるはずである。しかし、過去を振り返ると、2002年9月のNSSの1年前に「4年ごとの国防計画の見直し」(QDR)、2カ月前に「国土安全保障のための国家戦略」が出され、2006年3月のNSSの半年前に「海洋安全保障のための国家戦略」、1カ月前にQDRがそれぞれ発表されるといった一貫性のなさが認められた。
これに対してトランプ政権の戦略文書は発表順序が論理的かつ体系的で、これまた安全保障担当者の有能さを物語っているように思われる。(了)