公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

冨山泰

【第495回】演説で語られなかった米の対中戦略

冨山泰 / 2018.02.05 (月)


国基研企画委員兼研究員 冨山泰

 

 トランプ米大統領は1月30日の一般教書演説の外交・安全保障部分で、米国に挑戦する存在として、北朝鮮やイランといった「無法国家」、過激組織「イスラム国」(IS)などの「テロ集団」、そして中国とロシアのような「ライバル国」の三つを挙げた。しかし、演説で中国の覇権主義的行動を具体的に批判することはなく、拍子抜けであった。

 ●「ライバル国」を名指し
 トランプ政権は、ホワイトハウスが昨年12月に発表した「国家安全保障戦略」や国防総省が今年1月に発表した「国家防衛戦略」を通じて、中国とロシアを世界秩序の改変を目指す「現状変更勢力」と位置づけ、米国の安全保障上の第一の懸念はもはやテロではなく、中ロ両国との「戦略的競争」であると明言していた。この中長期的な脅威認識を大統領自身はどこまで共有しているのだろうか。
 演説が中国とロシアを「ライバル国」として名指ししたことは評価できる。しかし、話題はすぐに国防費増額と核戦力近代化に移り、中国に言及することは二度となかった。「無法国家」の代表として北朝鮮の悪辣さを強調するため、北朝鮮の牢獄から昏睡こんすい状態で釈放された直後に死亡した米国人青年の両親や、松葉杖の脱北者を演説場所の下院本会議場の傍聴席に招き、議場を埋めた上下両院議員らに紹介するなど、工夫を凝らしたのとは対照的だった。
 米本土に届く核ミサイルの完成が間近と見られる北朝鮮が米国にとって差し迫った脅威であることは確かだ。また、シリアとイラクの拠点からほぼ一掃されたISが世界各地に分散するのを防ぐことも、喫緊の課題だろう。しかし、中国の脅威に直面する同盟国としては、大統領が目の前の危険に焦点を当て、中国との覇権争いを見据えた国家戦略を語らないことに不安を覚える。

 ●30年先を見越す中国
 トランプ大統領の「ライバル」の習近平中国国家主席は、共産党総書記としての2期目に入った昨年10月の中国共産党大会で、2035年までに中国軍の近代化をほぼ実現し、今世紀半ばまでに中国軍を世界一流の軍隊にし、世界トップの総合国力と国際影響力を持つ近代化した社会主義強国を築き上げると宣言して、20年、30年先を見越した国家戦略を明らかにしている。
 それを踏まえて国防総省は国家防衛戦略で「中国は今後短期間でインド太平洋の覇権を握り、将来的には米国に取って代わり世界で優位に立つことを目指している」と警鐘を鳴らした。そうした危機感は、政権1年目の業績を自画自賛する大統領から伝わってこなかった。(了)