ロシアのプーチン大統領が2月20日、外交の基本方針を示す年次教書演説を行い、米国の中距離核戦力(INF)全廃条約からの離脱した対抗策として、ロシアも米国本土を射程に入れた新型ミサイルの配備や開発を進めると警告した。しかし、プーチン氏は同時にロシアとしては「軍拡競争には巻き込まれない」とも述べている。ロシアの真意はどこにあるのかを考えたい。
●条約破棄の裏に中国の存在
トランプ米政権は、ロシアは2015年にシリア内戦への介入で長距離巡航ミサイル「カリブル」を実戦投入し、その後も中距離戦術核の増産を進めていると批判している。条約を破棄する背景には、西太平洋で影響力を拡大しようと中距離兵器の開発に力を入れている中国の存在も指摘されている。中国はINF全廃条約の枠外にあるためトランプ政権内では破棄を求める声が強まっていた。
プーチン大統領は、条約違反はむしろ米国の側だとし、米国が東欧への弾道迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」配備に反発を強めている。プーチン氏は演説で、ロシアが開発・配備しようとしている新型ミサイルは、既にイージス・アショアの配備を終えたルーマニアや配備途上のポーランドばかりでなく、米国にも向けられると述べた。しかし、同じくイージス・アショアの配備計画がある我が国に対しては日露関係の現状からか言及していない。
●攻撃力高める方が安上がり
プーチン大統領は、マッハ9の速度を有し、射程1000kmのミサイル「ツィルコン」が潜水艦や水上艦艇に配備され、「カリブル」ミサイル搭載艦にも配備できると言明。また航空機搭載の超音速ミサイルである「キンジャーブ」と、滑空ミサイルである「アヴァンガールド」の開発についても言及した。
プーチン演説では、核搭載も可能な無人潜水艦(UUV)の開発も明らかにされたが、これはロシアが、兵役適齢人口の減少を克服するための兵器と捉えることもできる。米海軍では既に海洋調査用のUUVを保有しており、2016年にフィリピン沖で中国海軍に一時盗取されたことは記憶に新しい。
自衛官採用人口が減少している我が国でも、無人兵器や人工知能(AI)の活用は戦力確保のために注目すべきであろう。
ロシアとしては、経済力ではるかに勝る米国との軍拡競争に再び踏み出すことが得策でないことは認識しているはずだ。プーチン氏が「軍縮の扉を自らは閉ざさないが、ノックもしない」と述べていることにロシア側の苦悩が窺える。
事実、弾道ミサイル防衛に予算を割くよりも超高速ミサイルを開発・配備して攻撃能力を高める方が安上がりなのである。年次教書演説の後に行われた記者会見でも、プーチン大統領は「1962年のキューバ危機が再来することはない」とも述べ、米国との冷戦再来を望んでいないことも示唆した。