今年に入り韓日関係が悪化の一路をたどる中、日本のマスコミは3・1独立運動100周年を迎える3月1日に、韓国、北朝鮮が合同で大々的な反日行事を行うという予測記事を多数載せてきた。私はそれを読みながら、日本のマスコミは韓国情勢についてここまで無知なのかと、あらためてため息が出た。
たしかに、昨年9月に平壌で行われた南北首脳会談では、南北合同で3・1独立運動100周年行事を行うことが合意された。韓国の文在寅政権は100周年を国家行事として大規模に祝う準備をしていた。文政権関係者は金正恩がその時期に訪韓し、文大統領とともに記念行事に出ることを切望していたはずだ。
しかし、北朝鮮は米朝首脳会談の日程をその直前の2月27日、28日に設定し、21日になり、北朝鮮は「時期的に共同行事の準備は難しい」と韓国統一省に公式に通報し、首脳間の合意である南北合同行事開催も断った。つまり、北朝鮮にとって3・1運動は大々的に記念すべき行事ではないのだ。
●建国運動とは見なさぬ北
文政権は大韓民国建国70周年にあたる昨年、建国記念行事を行うことを拒否した。3・1運動の直後に1919年に上海で大韓民国臨時政府が置かれたことをもって建国と呼び、今年が建国100周年だと文政権は強弁している。
韓国内でも「1919年に建国されたのならその後、独立運動は必要なかったはずだ」「領土も国民も実効支配していない名目だけの政府樹立は建国とは言えない」「文在寅政権は大韓民国建国の父である李承晩の業績を無視したいために1948年の建国を認めないのだ」などという批判が起きていた。こちらの方がよほど筋が通っている。
一方、北朝鮮は昨年9月に大々的に朝鮮民主主義人民共和国建国70周年を祝った。北朝鮮は右派勢力が主軸だった臨時政府をまったく評価していない。そもそも3・1運動についても北朝鮮は、ソウルで民族代表が独立宣言を発表して始まったという史実を否定し、平壌で金日成の父、金正恩にとっては曾祖父にあたる金亨稷が始めたと歴史を歪曲している。
その上、1932年4月に金日成が満州で朝鮮人民革命軍を組織し、抗日独立闘争を展開したとしている。日本軍を負かして朝鮮北部を解放したのは金日成将軍が率いる朝鮮人民革命軍だったと歴史を捏造している。
●マスコミの予想は的外れ
しかし、当時、金日成は中国共産党の党員で、満州に展開した同党指導下の抗日パルチザン組織、東北抗日聯軍の1隊長だった。日本軍と闘ったのはソ連軍であって金日成ではなかった。この捏造した歴史を人民に強要するため、息子の金正日は1970年代、平壌にパリの凱旋門より少し高い、金日成将軍の戦勝を記念する凱旋門まで作っている。
つまり、北朝鮮にとって文政権が行う3・1運動記念行事は、そっけなく扱うことで韓国という国の建国を否定するという観点では利用価値があるが、臨時政府を高く評価することは金日成一家の活動以外は独立運動の価値を認めないという彼らの公式歴史観からはとても同調はできないのだ。
そして、実は盧武鉉政権時代から3月1日は、韓国の反共自由民主主義派による大規模な太極旗デモが行われてきた記念日でもある。2017年には朴槿恵弾劾に反対する20万人以上の国民がソウル市内で太極旗デモを行った。もちろん左派勢力も対抗するため、ろうそくデモをしてきた。
このところ3月1日は韓国内政の左右対決、あるいは韓国の自由民主主義を守るかどうかの戦いの場になってきた。その意味でも、当日は大規模な反日運動が起きるかもしれないとした日本マスコミの予想は的外れと言わざるを得ないのだ。