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2019.04.26 (金) 印刷する

F-35事故が突きつける国産戦闘機の存亡 吉岡秀之(元航空自衛隊補給本部長)

 航空自衛隊三沢基地所属の最新鋭ステルス戦闘機F-35A1機が、太平洋上で夜間戦闘訓練中の4月9日、同基地の東約135キロで突然消息を絶った。付近海域で左右の尾翼の一部が見つかったことから、防衛省は10日、この戦闘機が墜落したと断定した。日米が連携して捜索を続けている。
 F-35Aは米ロッキード・マーティン社を中心に、英国、イタリア、カナダなどが開発に加わった世界最新鋭の戦闘機である。今後B型(短距離離陸・垂直着陸機)とC型(艦載機)を含めて3000機以上が生産される予定という。米政府は同機が軍事機密の塊であるため、武器輸出管理法に基づき、友好国に限定したFMS(Foreign Military Sales)と称する対外有償軍事援助方式で輸出している。
 我が国も平成23年12月、野田佳彦首相時代の安全保障会議で42機の取得を決め、平成24年度から調達を始めている。また平成30年12月の安保会議ではF-35Aを63機、F-35Bを42機追加取得することを決めた。これにより、F-35の調達は総計147機となる。

 ●先細り深刻な防衛産業
 F-35の防衛産業に関係する特徴は次のとおりである。①FMSによる調達であるため企業は介在しない。②製造には三菱重工、三菱電機及びIHIが米企業の下請けで製造等の一部に参画したが、平成31年度からは経費上の理由から完成機輸入になる可能性が高い。③維持整備はALGS(Autonomic Logistics Global Sustainment)という全てのユーザー国が世界規模で部品などを融通し合う支援システムで行われるため、航空自衛隊の補給処や企業はほとんど関係しない。
 これまで、航空自衛隊はF-15、F-2及びF-4を主力戦闘機としてきた。その規模はF-15が約200機、F-4が約50機、F-2が約90機である。このうちF-15とF-4はライセンス国産機、F-2は日米の共同開発機である。
 F-35A はF-4の後継機として導入が始まっており、F-4は間もなく姿を消す。また、古いタイプのF-15と新たに増強する戦闘機を含めて105機がF-35AとBに逐次替わっていく。今後、航空自衛隊の主力戦闘機は当面、F-15、F-2、そしてF-35の態勢となる。しかし、F-2は約10年後に順次退役が始まる。
 以上を踏まえると、F-35の態勢が整う約15年先には、日本の防衛産業が戦闘機の維持整備等に関係できる規模は現状の約3分の2まで減ると予想される。同産業にとって深刻な事態である。

 ●期待懸かるF-2後継機
 では、どうすれば良いか。次を最優先に取組むべきと考える。1つは、F-2の後継機など将来必要となる新たな戦闘機事業を速やかに開始して量産化にこぎつけることだ。2つ目は、装備品開発の推進と友好国との共同研究に積極的に参画する。この関連で企業を集約・統合して特に技術力を強化する必要がある。3つ目は、官主導で装備品や部品の輸出を促進する。4つ目は、契約制度を合理化・効率化して、より衡平な内容に改善することである。
 かつて、先輩から「F-35は現代の黒船襲来である」と聞いた。改めて、そのインパクトの大きさに驚いている。大事な防衛産業を潰さないように、官民が連携してこの難局に立ち向かうことを切に願っている。