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2019.05.09 (木) 印刷する

北海道全域を「領土外」とする文科省検定の錯誤 藤岡信勝(新しい歴史教科書をつくる会副会長)

 3月下旬に公表された文部科学省の教科書検定結果の中で、小学6年用社会の教科書に掲載された江戸時代初期の日本地図のうち、北海道が日本ではなかったとする改変が検定によってなされていたことがわかり、批判の声が上がっている。
 検定意見が付いたのは東京書籍の教科書。江戸時代の初期から日本の貿易船が中国沿岸から東南アジア全域にまで航路を広げていたことを図示したもので、申請段階では、日本の位置を目立たせるために赤く色が着けられていた。

 ●「うっかり」では済まない
 これに対する検定意見は「北海道、千島、樺太の塗色で、児童が誤解する恐れのある図」であるというものだった。検定意見を受けて教科書会社は、北海道全域を白に変えて検定に合格した。しかし、これでは、この事実を最初に報じた産経新聞(4月14日付)の見出しにあるとおり、「北海道以北を『領土外』扱い」した印象を与えかねず、看過できない大問題である。
 まず指摘したいのは、同じ東京書籍の中学歴史教科書の現行版が、松前藩の近傍を赤く塗色し検定を合格していることだ。文科省はうっかりしてダブル・スタンダードを犯したのか、それともこの4年の間に政府の方針が変わったのか、明確に答える義務がある。
 多分、後者は成立しない。というのは、内閣府のホームページは現在、「日本人による開拓の歴史」と題するパートで「1635年(寛永12年)、北海道を支配していた松前藩は、北海道全島及び千島、樺太を含む蝦夷えぞ地方の調査を行いました」と書かれているからである。松前藩は北海道を支配していたのだ。文科省検定の立場と明確に矛盾する。

 ●中国の領土的野心に口実
 4月16日、柴山昌彦文科大臣は記者会見でこの検定意見にふれ、「地図は現在の日本の領土を示すものではなく、江戸時代初期の江戸幕府の支配領域をあらわしたもの」であると釈明した。これは重大で、北海道は日本固有の領土ではなくどこからか(さしずめアイヌから?)奪い取ったものだという歴史解釈になりかねない。
 しかし、検定の根拠となる学習指導要領は「『領土の範囲』については,竹島や北方領土,尖閣諸島が我が国の固有の領土であることに触れること」と書いている。今回の検定意見は学習指導要領違反である。
 これを放置すると、いま北海道の土地を爆買いしつつある中国の領土的野心に口実を与えかねない。国会が学問的根拠もなくアイヌを「先住民族」と規定するアイヌ新法を制定したことも不吉な予感を助長する。文科省は急いでこの検定意見を撤回すべきである。