公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2019.05.13 (月) 印刷する

北の弾道ミサイル拡散を阻止せよ 太田文雄(元防衛庁情報本部長)

 北朝鮮は4日と9日、短距離弾道ミサイルを発射した。明確な国連安保理制裁決議違反である。
 この弾道ミサイルは核弾頭も搭載できるロシア製イスカンデルに酷似している。低い軌道から最終段階で弾道ミサイル防衛システムを回避する行動をとり、囮も放出する。このため、地対空ミサイルのペトリオット3や韓国が配備している終末高高度防衛システム(THAAD)では迎撃が難しい。

 ●イランへの流出は要警戒
 国際社会は、もう一つの「ならず者国家」であるイランに、本弾道ミサイル技術が流出しないように「拡散に対する安全保障構想(PSI)」を強化しなければならない。
 昨今のイラン情勢の緊迫化により、米国は空母エーブラハム・リンカーンを中東に、また戦略爆撃機B-52を4機、カタールに展開させた。カタールはペルシャ湾のイラン対岸に位置し、イランからは、今回、北が発射した短距離弾道ミサイルの発射距離420kmの射程内にある。
 イランと北朝鮮の軍事技術交流が緊密であることは、これまでの複数の事例からも明らかになっている。筆者は、韓国が李明博大統領時代の約10年前、ソウルで大量破壊兵器拡散防止に関するパネル・ディスカッションに元米国安全保障会議アジア部長のビクター・チャ氏と共にパネリストを務めたことがあったが、中国側パネリストであった人民大学の教授が「中国は拡散防止構想(PSI)には絶対加わらない」と述べていた。当時の韓国は、北朝鮮の大量破壊兵器拡散阻止に加わる意志があったが、文在寅政権下の韓国は、今回の発射を敢えて「弾道ミサイル」と言わないばかりか、韓国籍のタンカーから北朝鮮船舶が石油製品の瀬取りを行なっているくらいであるから推して知るべしである。

 ●中国の拡張に手を貸す韓国
 中国国営通信の新華社(電子版)は7日、天皇に謝罪を求める発言をした韓国の文喜相国会議長が栗戦書全国人民代表大会常務委員長と握手している写真と共に「中韓は一帯一路の協力で連携強化へ」とする記事を配信した。中国は、かつてインド包囲網の一環である「真珠の首飾り」を東に伸長させる拠点として韓国の釜山南西の巨済島(コジェド)を狙っていた。巨済島は韓国海軍士官学校の対岸にあり鎮海海軍基地に近く、しかも対馬海峡にもアクセスし易い。
 今月の初めに米国防総省が公表した『中国の軍事・安全保障分野の動向に関する年次報告書』にも、中国の北極海航路についての特別記事「北極海における中国」(114頁)があった。巨済島にアクセスして北極海航路に必要な対馬海峡をコントロールしようとする中国の意図が見え隠れする。韓国がしっかりしてくれなければ、国際的な安全保障を脅かす中国の拡張政策を手助けするだけだ。