公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2019.07.22 (月) 印刷する

互いに血や汗を流す同盟関係に 太田文雄(元防衛庁情報本部長)

 トランプ米大統領の「日米同盟は不公平」発言を受けて、NHKのBS1が7月10日放送した「キャッチ!世界のトップニュース」で外交・安全保障担当の増田剛解説委員が「日米安保は、アメリカにとって、不公平どころか、測り知れないメリットをもたらしていると思います。日本政府は、トランプ大統領に、こうした同盟の内実をきちんと説明し、誤解を解く必要があります」と主張していた。
 増田解説委員は嘗て、日本が北大西洋条約機構(NATO)加盟諸国並みの防衛義務を負っていないことに触れずに、「日米地位協定やホストネーションサポート(受け入れ国支援)は、他同盟国に比して突出して米国を優遇している」との趣旨も主張していた。日本では多数のメディアに見られる主張のようだが、はたしてそう言い切れるのか。

 ●100ドルで命は贖えない
 湾岸戦争後、日本は130億ドルを拠出した。国民一人当たり約100ドル拠出した計算になる。これを米軍人に説明して理解を求めたところ、相手はポケットから100ドル札を取り出し「これで済むものなら誰も汗と血を流してまで国際秩序を守らない」と反論されたことがあった。
 「兵力を出さなくても130億ドル拠出したから良いではないか」という論理は、「施設を提供しているのだから米国は日本を守るのは当たり前」と同種の主張である。
 防衛費支出での同盟への貢献も十分ではない。最近亡くなった米国の著名実業家ロス・ペロー氏は1990年代に2度、大統領選挙に独立系候補として出馬したが、選挙戦中にテレビで日本の防衛費と米国のそれとを対国内総生産(GDP)比で比較し、「美しい(Beautiful!)」と皮肉っていた。当時、米国に居てテレビを見ていた筆者は、そのことを鮮明に覚えている。
 日米同盟は不公平という気持ちは、トランプ大統領に限らず米国の一般市民に一貫して燻り続けている。国力がない戦争直後の日本なら、それでも許されたが、今日では通じなくなっている。

 ●不均衡な貢献が招く危機
 筆者の博士号論文は『同盟の理論的根拠:冷戦後の日米同盟(Alliance Rationale: US-Japan Alliance after the Cold War)』である。これは『21世紀における日米同盟—歴史の観点と存続のための理論的根拠(The US-Japan Alliance in the 21st Century—A View of the History and a Rationale for its Survival)』としてGlobal Orient社から2006年に出版された。その結論は「同盟史の教訓から言えることは、相互不信(mutual distrust)と不均衡な貢献(imbalanced contribution)によって同盟は崩壊に至る」であり、「日米同盟も互いに血や汗を流す関係にしていかないと、何れは崩壊に至る危険を孕んでいる」というものである。
 かけがえのない自分や家族の命と、カネや施設提供は等価ではないことを肝に命じないと、いずれ日米同盟は崩壊しかねない。その時、米国はアジア・太平洋における前進基地を失うだけだが、日本は存立の基盤そのものを失うことになるのである。