韓国をホワイト国のリストから除外したことで、韓国の康京和外相は1日、日韓の軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の破棄を報復措置として示唆した。GSOMIAが合意されたのは3年前の2016年に過ぎない。それまで協定なしでやってきたことを考えれば我が国の軍事情報収集上、決定的に困るかと言えばそんなことはない。GSOMIAのメリットは双方にあるのであって、日韓の一方だけが得をするという性質のものではない。また、一般には、この協定で全ての秘密軍事情報が交換されているかのような誤解があるが、実態はそうではない。
●情報は相互互恵が原則
例を挙げてみよう。GSOMIAが締結寸前で韓国にドタキャンされた2012年に北朝鮮は西岸から中距離弾道ミサイルを発射した。事前情報に基づき、黄海に韓国のイージス艦が、沖縄近海に海上自衛隊のイージス艦が展開し、発射から上空に至るまでを韓国のイージス艦が、上空から着水までを海自のイージス艦が追尾することになっていた。だが海自イージス艦のレーダー水平線に到達する前に弾道ミサイルが落下したため、日本側の弾道ミサイル発射発表が遅れた。
仮に当時、日韓間でGSOMIAが締結されていて北朝鮮の弾道ミサイル発射が成功していれば、日韓がそれぞれ入手したデーターを持ち寄って正確な北朝鮮の弾道ミサイル軌道が分析できた。即ち、日本にとっても韓国にとっても利益があるのである。韓国の中央日報によればGSOMIAに基づく軍事情報交換は過去3年間で22件あったが、その内の19件が北朝鮮の弾道ミサイル発射が集中した2017年であることが、この事実を裏付けている。
まさしくギブ・アンド・テイクの関係で、交換する秘密軍事情報は日韓双方に有益なものに限られる。韓国は偵察衛星を保有していないが、日本は情報収集衛星を現時点で光学2基、レーダー5基を運用している。
また日本は、北海道から南西諸島に至るまで幅広く信号情報を入手しているが、韓国は38度線の狭い正面にすぎない。逆に韓国が保有している脱北者の人的情報は日本にとっては貴重だが、情報を出すことが自国にとって益がないと思えば一方的に出すことはしない。
●破棄は交渉手段にならない
私が情報本部長であった2001年から2005年までの間、韓国軍情報機関のトップ及びその幕僚とは毎年、東京とソウルで交互に情報交換の会議を行っていたが、韓国側の情報不足に首を傾げる場面が何度もあった。
即ち韓国にとってもGSOMIAは有益なのだ。その証拠に韓国の国家情報院長である徐薫(ソ・フン)氏が「内容上の実益と象徴的意味」を強調して破棄に慎重な姿勢を示したのは至極当然である。「象徴的意味」とは日米韓の安全保障上の結束を対外的に示すという意味であり、これを韓国側が乱そうとしていることに米国は強い不快感を示している。
輸出管理上のホワイト国リストから韓国を除外したことへの報復として韓国側が日韓GSOMIAを破棄するというなら、自分で自分の首を締めるものと言うほかない。我が国としては「やるならおやりなさい。3年前の状態に戻るだけの話」と言うだけである。