7月23日と8月2日に起こった2つの事件は、北東アジアでの地殻変動を象徴的に物語っている。日本領土の竹島周辺で韓国軍機がロシア軍機に警告射撃をした事件、ロシアのメドベージェフ首相による通算4回目の北方領土訪問である。
果していつごろから、このような変動が発生しているのか。正確には断定しかねるが、とりわけトランプ大統領の就任(2017年1月)以降、顕著になりつつあることは間違いない。
●変わる北東アジアの力関係
トランプ氏は、欧州ばかりでなく、中東、北東アジアなどで米国の同盟諸国は己の安全保障にもっと努力を傾けるべしと警告している。歴代大統領の何人も敢えて行わなかった北朝鮮最高指導者との間で既にトランプ大統領は3度も首脳会談を行い、将来ワシントンDCに招聘するアイディアすら示唆している。
2017年には韓国でも、朴槿恵大統領の罷免にともない文在寅氏が当選、「親北・反日」ともいえる政策を打ち出した。実際、日韓関係では徴用工問題、レーダー照射事件などが発生し、両国は果たして同盟国に近い関係と呼びうるのか――こう称される状態にすら陥っている。
他方、かつて北東アジア地域で「米・日・韓」に比べ、はるかに劣勢であるかのように見えた「露・中・北」が勢いを増してきた。ひとつの要因は、中露の経済力の格差拡大といえる。かつてロシアの「弟」と見なされていた中国は、今や経済力でロシアの「兄」と称されるまでの実力をつけるようになった。米国に次ぐ、世界第2位のGDP(国民総生産)を誇る。
●北方領土も本心は補償目当て
他方、ロシアのGDPは韓国のそれに等しく、低迷している。ロシアが唯一中国に勝っているのは、核兵器など軍事力に過ぎない。中国にたいする優位を誇ろうとして、ロシアは「合同軍事大演習」を頻繁に敢行する。
中国は、米国との「貿易戦争」の火種を消し、「一帯一路」構想を展開させ、米国の「一極主義」に対抗するためには、ロシアの「多極主義」を当面利用するのが得策と考える。
今度の竹島周辺の警告射撃問題の落としどころとして興味ぶかいのは、韓国・ロシアそれぞれの政権と軍部の力関係だろう。ロシアに関していえば、クレムリンの相対的な弱体化に伴い、プーチン政権は、極東ロシア軍の発言力の伸長を抑える力を徐々に失いつつあるようにも思える。
メドベージェフ首相の4度目の北方領土訪問も、おそらく国内向けの示威、引き締め行為なのだろう。島民の多くは出稼ぎ目的で、ロシア公式筋の世論調査とは異なり、本心では日本からの補償を受けとって島を去ることを望んでいる。