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2019.08.19 (月) 印刷する

北発射の飛翔体は韓国保有「玄武2」に酷似 太田文雄(元防衛庁情報本部長)

 今月の米韓合同軍事演習前から北朝鮮は弾道ミサイルや新型多連装ロケット砲を発射し続けている。このうち10日と16日に発射した飛翔体は、北朝鮮公開の「新型兵器システム」映像が正しいとすれば、これは韓国が保有する弾道ミサイル玄武2A、即ち米国の陸軍戦術ミサイルシステム(Army Tactical Missile System-ATACMS-)に酷似している。
 また7月末に発射された弾道ミサイルに関しては、5月上旬に数発発射したイスカンデルと同種で、飛距離は約600kmに及び、韓国が保有する弾道ミサイル玄武2Bに酷似している。発射直後に4片の留め金が放出されている点などはそっくりである。
 政治的な狙いは、厳しくなりつつある日韓関係を考慮しつつ、新型短射程ミサイルの性能試験を行い米国のレッドラインを探ることにあったように思われる。
 案の定、トランプ大統領は一連の発射に対して「問題視しない」と発言した。国連決議違反であり同盟国である日本の西部が射程内に入るのに何たることか。政府の「日本の安全保障には影響しない」とする発言も、直接はその通りかもしれないが、影響はある。

 ●韓国が秘密裏に譲渡の可能性も
 韓国が保有する弾道ミサイル玄武2Cに関しては、米側の圧力で射程は日本に到達しないよう500kmに抑えられていたが、韓国は2017年4月、800kmの射程で発射成功と発表した。我が国の一部は当然射程内である。
 韓国は、これら玄武2号に加え、巡航ミサイルである玄武3号(最大射程はCの1500km)を併せて将来的に合計2000基を保有する計画である。当然我が国は「専守防衛」の下、これほどの射程のミサイルは保有していない。
 元韓国軍情報機関の専門家の中には、北朝鮮がハッキングによって韓国の玄武2A/Bの秘密を入手したか、あるいは韓国が秘密裏に譲渡、例えば文在寅大統領が金正恩と昨年、38度線で面談した際に渡したというUSBメモリーの中に玄武2号に関する秘密情報が含まれていた可能性を指摘している人もいる。
 玄武2/3号は、これまで友好国のミサイルとして問題視してこなかった。しかし、昨今の日韓関係の悪化は、解決の見通しがつかず「行くところまで行く」様相を呈している。米トランプ大統領が日韓関係の仲裁役を担う兆候は見られない。日本には専守防衛政策の下、弾道ミサイルはおろか、現時点では敵基地攻撃能力もない。これからは専守防衛では日本は守れないことを改めて声を大にして言いたい。

 ●差し迫る核攻撃の脅威
 迎撃する側は弾道ミサイルの現在位置ではなく迎撃ミサイルの飛行時間を考慮に入れた未来位置に迎撃ミサイルを向かわせる。その未来位置は、それまでのコースとスピードから計算するが、未来位置を計算して迎撃ミサイルを発射した後に軌道修正されると迎撃ミサイルは当たらなくなる。
 イスカンデルは飛行途中に軌道修正ができ、中国人民解放軍が保有する短・中距離弾道ミサイルのDF-11やDF-21、それにロシアの潜水艦発射弾道ミサイルSS-N-6が搭載している機動型弾頭(Maneuverable Reentry Vehicle- MaRV-)も同様である。
 今回北朝鮮が発射したミサイルは、弾道ミサイルというよりは高速で低空を飛行する巡航ミサイルの様相を呈している。米海軍とオーストラリア海軍は、こうした巡航ミサイルをも迎撃できるSM-6を配備しているが、我が国は未だ配備していない。一連の北朝鮮飛翔体発射を受けて、岩屋毅防衛大臣は2日、「総合ミサイル防空能力の強化を進める」と表明した、その意味するところは弾道ミサイルだけでなく巡航ミサイルも迎撃できる態勢であろう。
 北朝鮮は、こうした迎撃が難しいミサイルに核弾頭を搭載できる能力を有している。米大統領が問題視しないので、金正恩の胸先三寸で日本を核攻撃できるのである。こうした状況の変化にもかかわらず、毎年この時期になると日本全土で反戦、反核ばかりが声高に叫ばれる。祈りや叫びで我が国の安全保障が全うできるなら苦労はない。