公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2019.11.05 (火) 印刷する

「調査・研究」では日本船は守れず 太田文雄(元防衛庁情報本部長)

 政府は中東海域に自衛隊を派遣するよう検討を開始した。その法的根拠は防衛省設置法が定める「調査・研究」だという。つまり通常の任務の延長線上に位置づけられる。6月に日本のタンカー「コクカ・カレイジャス」が吸着機雷で攻撃されたような場合には、反撃ができない。
 その場合には自衛隊法に基づく「海上警備行動」を発動するのかもしれないが、それでも使用できる権限は警察官職務執行法(警職法)に基づく警察行動のみである。近くで攻撃を受けて助けを求めている他国のタンカーがいても「海上警備行動」では助けることはできない。警職法に基づく「正当防衛」と「緊急避難」では、この種の国際的任務は遂行できない。
 警察権だけでは海外での任務は遂行できないが、さりとてその上の防衛出動を下令するにはハードルが高すぎるので、これまで国連平和維持活動(PKO)、対テロ、海賊対処、インド洋での補給支援活動、イラク派遣等では、その都度、特別措置法をパッチ当てのようにして制定してきたが、それでは限界がある。総合的な法整備が必要だ。

 ●中国は可能でも日本は無理
 中国誌『現代艦船』(月2回刊行)は今年16号で「中国はホルムズ海峡で船舶の保護実施を担当しなければならないのか」という特集記事を掲載している(26-32頁)。その中で「2018年の中国の10大石油輸入相手国のうち、5カ国がペルシャ湾の沿岸にある。」と当海域の重要性を説いている。慎重論が根強い我が国とは異なり、中国では派遣に向けた議論が積極的に交わされている。
 海賊対処のために海上自衛隊を派遣する決定を行った2009年3月の直前にも、中国は海賊対処のために人民解放軍海軍を派遣する決定を行っている。
 仮に人民解放軍海軍がホルムズ海峡に軍艦を派遣し、自衛艦も近くにいる中で、他国のタンカーが攻撃されて救助を求めてきた場合、中国の軍艦は反撃できるが、自衛艦はじっと眺めているほかない。そんな状況が国際的に報道されたら、日本の国際的評判は地に落ちるだろう。

 ●欠落したシーレーン安保認識
 今回、米国が呼びかけた有志連合は、参加国が少ないために「海上安全保障イニシアティブ(Maritime Security Initiative)」と名前を変えたが、この名称は15年前にもあった。
 米太平洋軍(現インド太平洋軍)は2004年、当時の司令官であったトーマス・ファーゴ海軍大将が提唱した「地域海洋安全保障イニシアティブ(Regional Maritime Security Initiative-RMSI-)がそれだ。主としてマラッカ海峡におけるシーレーン(海上交通路)の安全保障を沿岸諸国と共に図ろうとしたものの、地域国からなかなか賛同が得られなかったという。これは筆者がファーゴ氏本人から直接聞いた話だ。
 わが国では「ホルムズ海峡が緊張し始めたのは米国がイラン核合意から脱退したためだから、日本は中東に自衛隊を派遣すべきではない」と主張する人たちが多い。こうした反対論に決定的に欠落しているのは、日本のエネルギー補給路の重要性についての認識である。