米中貿易戦争は、いまのところ米国に利がある。中国国家統計局が10月18日に発表した7~9月期の国内総生産(GDP)成長率は前年同期比6.0%増に留まった。今年4~6月期比で0.2ポイント鈍化し、2期連続で減速した。年間も含めると、天安門事件後の1990 年の前年同期比3.9%増以来最低となった。四半期ベースでは、遡及できる1992 年以降で最低だ。
一方、米商務省が30日発表した7~9月期の実質GDP成長率(季節調整済み、速報値)は、前年同期比1.9%増で、市場予想の1.6%増を上回った。
個人消費は前期では減速したものの健全な水準を保ち、輸出がプラスに転じた。住宅建設も7四半期ぶりに持ち直したことも押上げ要因となった。
●対米貿易戦争も打撃に
この状況を受けて米連邦準備理事会(FRB)は10月30日の連邦公開市場委員会(FOMC)で、政策金利であるFF金利の誘導目標を予防的措置として0.25%引き下げた。7月、9月に続く3会合連続の利下げである。米景気の先行きはトランプ政権が仕掛けた貿易戦争次第ではあるが、FRB内には景気失速は当面避けられるとの判断があるようだ。
一方、中国経済は米国経済に比べて、生産や消費に勢いが見られない。企業の設備投資の落ち込みも鮮明である。国策としてのインフラ(社会基盤)投資を加速させて凌いでいる姿が鮮明だ。
1~9月期のGDP成長率は前年同期比6.2%と、中国政府が定めた2019年の年率目標「6.0~6.5%」の範囲内には収まっているものの、米中貿易交渉の成り行き次第で、予断は許さない状況にある。
この結果は予想されていたものである。みずほ総研(「2019・2020年度 内外経済見通し~世界経済は米中摩擦激化から減速基調が継続~」(2019.8.13、上図参照)によれば、米中の追加関税応酬で両国間の貿易は大幅に縮小し、影響が設備投資や消費に波及した場合には、世界経済の実質GDP成長率を2019年に最大で0.3 %ポイント下押しするという。
米中の対立が長期化して第 4弾の追加関税が25%に引き上げられた場合、2020年の中国経済は2019 年を上回る下押し圧力を受ける可能性があり、警戒が必要だとしている。
米中貿易戦争が中国経済の成長率を下押しする影響の大きさについては、国際通貨基金(IMF)が昨年明らかにした試算で指摘している。このまま米中間の対立が深まれば、中国にとってさらに厳しい状況に陥ることは避けられない。
現在のところ日本経済は消費及び投資が底堅く、影響は限定的であるが、米中貿易戦争が長期化の様相を呈してきたことを勘案すれば、とりわけ自動車産業を中心として相当の影響が避けられない。
●社会主義市場経済の矛盾
習近平主席は、2017年の中国共産党第19回党大会で、建国百周年を迎える今世紀中頃までに「富強、民主、文明的で、調和のとれた美しい『社会主義現代化強国』の建設を目指す」とする長期目標を明らかにしている。つまり、中国はあくまで共産党独裁の社会主義国家であり、その基本思想は本質的に自由な資本主義的市場経済国とは相いれない。
米中貿易戦争はまた、国家資本主義と自由貿易体制は共存できるのかという基本的な問題を問うている。市場経済原理を導入しつつも、政府が国有企業を通じて積極的に市場に介入する中国型の国家資本主義。それと、われわれ自由主義国家がどのように対峙するかの正念場にある。日本は、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)の拡大や東アジア地域包括的経済連携(RCEP)を推し進めることで、中国との安易な妥協を排し、自由な貿易経済圏を確立するために毅然と立ち向かう覚悟が求められている。