現在の中国では、社会主義市場経済が経済の原則となっている。これは 1993 年の中華人民共和国憲法の改正で計画経済に取って代わったもので、憲法の前文および条文、中国共産党規約、その他の法規や文書でも社会主義市場経済に言及している。(※1)
しかし島田洋一福井県立大学教授が指摘するように、一党独裁下のその実態は、まさにファシズムの一形態に他ならない。
●途上国扱い許されぬ経済大国
独立した国内金融政策、安定した為替相場、自由な資本移動、の3つは同時に実現できない。「国際金融のトリレンマ」と称される理論で、1980年代に認知されるようになった国際金融論上の定説である。実際、日米を含め殆どの国は上記3つのいずれかを放棄している。
今日のほとんどの先進国では、為替変動を受容している。独自の金融政策をとれば必ず内外の金利差が生まれ、その差を埋めようと資本流出入が起こり、必然的に為替相場が変動する。
ユーロ圏内の金融政策は欧州中央銀行(ECB)に一任されている。自由な資本移動を許しながら為替相場を固定するためには、金利差は認められないからだ。
これに対して中国は、国内金融政策の自由度を優先しつつ、資本移動に関る規制は残してきた。規制の強弱を調整することで、海外の資本・技術を取り入れて成長し、グローバルな通貨危機等の波及は阻止してきた。言い換えれば、文字通り自由主義市場経済国を「搾取してきた」ともいえる。
世界貿易機関(WTO)のルールで発展途上国と認定されれば、貿易自由化の一部免除などの優遇措置を受けられることになっている。しかし実利よりも先進国入りという国家の威信がかかるだけに、韓国ですら先ごろ、その権利を放棄した。
ところが、今や世界第2位の経済大国である中国はいまだに途上国の地位に安住している。途上国を外れれば、早急な変動相場制への移行、国内金融政策でも高い自由度を保持しなければならない。自由な資本移動を許容する体制への移行は世界経済及び経済の発展に対する中国の取るべき責務である。
●「歪曲」はもう通じない
欧州委員会は3月28日に公表した「アンチダンピングおよび反補助金、セーフガードなどに関わる報告書(2018年度版)」で、2018年12月末現在で発動中の通商措置135件ののうち、実に3分の2が中国からの輸入を対象とするものだと指摘している。欧州連合(EU)は中国の不公正貿易に対する効果的な防衛措置の必要性を強調している。
EUは、加盟国以外の諸国からのダンピング輸入に厳しい規則を課しているが、中国のように企業に対する政府の関与が大きい国では、原材料とエネルギーのコストを含めた価格やコストが、政府の介入による影響を受ける結果、次のような自由な市場の力では決まらない歪曲が起こると定義している。
・国家による所有、支配、監督、指示を受ける企業が市場を大きく支配
・企業に対する国の影響力により、価格やコストに関して国が介入
・公的な政策や措置が国内企業を優先、もしくは自由市場に影響
・破産法や会社法、不動産法の執行が欠如しているか差別的、あるいは不十分
・労働コストが歪曲
・公的機関、または国家から独立していない機関が資金を提供
中国が進める社会主義市場経済の下では、いずれも「当たり前に行われている」ことではあるが、EUは以上の要素の1つでも該当すれば「歪曲」と判断している。
米中貿易戦争の核心の1つは、中国の「社会主義市場経済」を普通の自由な資本主義市場経済に転換させることである。その意味で日本は、欧米諸国、アジア諸国と共に、自由貿易の砦ともいうべきWTOの抜本的改革に一層力を入れるべきだ。
<注>
(※1)日本貿易振興機構(ジェトロ)『中国経済における市場歪曲の実態と分析欧州委員会スタッフ作業文書の要約「欧州における中国の『一帯一路』構想と同国の投資・プロジェクトの実像」の参考資料』2018 年 3 月