公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2019.11.08 (金) 印刷する

習氏の国賓訪日の意義は何なのか 太田文雄(元防衛庁情報本部長)

 天皇陛下が訪中された1992年、中国は尖閣を含む海域を領海とした領海法を制定した。98年に江沢民主席が国賓として訪日した際には、宮中晩餐会を含めて何回も歴史問題で日本の反省を求めた。当時、在米日本大使館に武官として勤務していた筆者は、日本からの出張者が「江沢民の度重なる対日歴史問題非難の発言には吐き気を催した」と語っていたのを覚えている。その中には、現立憲民主党国会対策委員長の安住淳氏もいた。
 中国から次の国賓として当時の胡錦濤主席が訪日したのは2008年であったが、この年に初めて中国海監総隊の船舶2隻が尖閣諸島の領海に約9時間半侵入している。日本の抗議に対して中国外交部の劉建超報道官(当時)は「中国の内政事項、非難の余地なし」と反論した。
 これまでの日中国賓相互訪問で日中間の友好は進展したのか。してないのであれば、このタイミングで習近平主席を国賓として招く意義は何なのかが問われる。

 ●対米行き詰まり時の対日カード
 中国は、米国との関係が厳しくなると日本に対して微笑外交に転じる。このことを言うと必ず中国側から反論が出る。中国が対日友好に転じたのは2015年からで、米中貿易摩擦が始まったのはトランプ政権が誕生した2017年以降であると。
 しかし毎年、官邸国際広報室の依頼で米国に講演に回っている筆者は、年々米国の対中姿勢が強硬になってきているのを肌で感じている。米国の対中強硬姿勢はトランプ政権になってからではない。
 オバマ政権後半にアジア・リバランス(再均衡)政策を提唱した2012年以降である。米国の安全保障、外交、経済の軸足をアジア太平洋地域に、すなわち対テロから対中に移すというもので、中国はこの政策を推進した当時のヒラリー・クリントン国務長官が次の米大統領になることを何とか阻止しようとしていた。
 米国の対中強硬姿勢を代表する2018年のペンス副大統領演説では、会場となったハドソン研究所のマイケル・ピルツベリー中国戦略センター長の名が二度にわたって言及された。ピルツベリー氏がペンス演説の原型ともいえる『100年マラソン』を出版したのが2015年。その中でピルツベリー氏は「米国は対中関与策を100年続けたが何も変わらなかった」と対中警戒論を強く訴えている。そうした動向が中国に伝わらない筈はない。

 ●嫌中意識強い中での成果とは
 先月末に米調査機関ピュー・リサーチ・センターが行った対中好感度に関する世界各国の世論調査で、日本人の嫌中度合いは85(好中度合いは14)で、あれだけ対中強硬策をとっている米国ですら60(26)である。ちなみにフランスは62(33)、オーストラリア57(36)、ドイツ56(34)、イギリス55(38)だった。現時点での日本人の嫌中感は頭抜けている。
 日本人の圧倒的多数が中国主席の国賓訪中を歓迎していない中で、天皇陛下に両手を挙げて習近平主席を迎えていただくことはいかがなものだろうか。