安倍晋三首相が、自民党総裁としてぜひとも憲法改正を実現したいとの決意であることはよく知られてをり、私もぜひ安倍内閣の間に憲法改正が実現されることを期待してゐる。私は本欄でも何度か主張してきたやうに、安倍さんの加憲案に反対であるが、某自民党有力議員のやうに、憲法改正の動きに水を差すために反対してゐるのではない。
その関連で、最近安倍さんは、自分の案に固執するつもりはなく、対案があつたらどんどん出してほしいと言つてをられることに敬意を表するものである。
そこで、野党が憲法の全面改正を主張したらどうかと思ふ。現在の我が国においてどこにそんな野党が存在するのかとの反論があるかもしれないが、政治の世界は一寸先は闇だといふ言葉もあるから、誰かが声をあげればとの思ひで、本欄に投稿する。
それには、現行憲法が占領基本法であることをもう一度再確認する必要がある。
●村田氏の「正論」に違和感
やゝ古いが、10月10日付産経新聞の「正論」欄に掲載された、村田晃嗣同志社大学教授の「21世紀の『闘技場』生き抜くには」の一節に私は大きな違和感を抱いた。
国際社会は闘技場のやうなものであるから、その中で生き抜くにはどのやうな問題があるかとのテーマ自体には特に反対ではない。しかし、日韓関係について述べるにあたつて、村田教授は、韓国は日韓基本条約締結時、軍事政権下にあつたから「不本意な条約を強いられたと信ずる韓国人は少なくない。占領下で米国に不本意な憲法を押し付けられたという、日本の一部の議論と似ていよう」と述べてゐる。
この議論は、占領下で主権が日本国にも国民にもなかつた状況における占領下での法律制定の問題と、主権国家が対外的に締結した国際条約の問題とを、混同して同じ次元で比較してをり、誤つた議論である。
現行憲法の改正手続きに携はつた人たちの回想録では、いかに占領軍の命令で作られたか、それが屈辱的であつたかをほぼすべての人が語つてゐる。
現行憲法が占領基本法であるとすれば、本来占領終了後に、新たな憲法を制定しなければならなかつたのであるが、我が国はそれをしてこなかつた。
●加憲案にはやはり反対だ
ここで全面改正といへば、明治憲法の復活か、復古調の憲法かと批判する者がゐるだらうが、それはためにする議論である。
そもそも明治憲法は、当時としては極めて進歩的な憲法であり、美濃部達吉教授や、宮沢俊義教授も改正の必要がないといつてゐたくらゐである。私も明治憲法と現行憲法とを比較しても大局的にはそれほど大きな違ひはないと考へてゐるが、現行憲法の9条や前文については別だ。
9条が軍隊の保持を認めてゐるかだうかといふことであれば、私は認めてゐるとの解釈を取る。しかし改正するとなれば第2項を削除するのが筋であり、安倍首相の加憲案には異論がある。
首相の加憲案は、第2項をそのままに、自衛隊を憲法上、単に「自衛隊」と明記するといふことのやうだが、それは逆に、自衛隊が現行憲法上、軍隊ではないと認めることにもなりかねない。
これでは、憲法上認められた自衛隊の行動について、憲法違反かどうかといふ議論を延々と繰り返すことになる。
また、私は、現行憲法の前文は削除すべきであると考へてゐる。
野党側も与党案に反対なら反対で徹底的に議論したらいい。しかし、対案を出すべきである。私は、そのやうな形での憲法議論がなされることを切望する。