ついに香港デモ隊に死者が出た。現地からの報道によると11日にも香港の警察官が無防備の市民に実弾を発砲し、男性1人がケガをして病院に搬送されたが重体だという。その模様は動画サイトでも流れているが、警察官は至近距離から躊躇なく連続発射している。香港デモのきっかけとなった中国へ犯罪者を引き渡す逃亡犯条例が行政府によって撤回されたにもかかわらず、香港デモは鎮静化するどころか益々激化している。
香港の林鄭月娥行政長官は、今月4日夜、習近平主席と会談して「秩序回復が最重要任務」と早期のデモ鎮圧を求められている。両者には、香港民衆の心情を汲み取る意思がなく、危機管理能力にも劣っていると言わざるを得ない。このまま推移すれば、近く中国本土から武装警察が大量投入される可能性が高いのではないか。
●本格介入は時間の問題か
香港駐留の人民解放軍は約6000人だが、8月末に広東省からほぼ同人数の部隊がバスで「交代」の名目で入ったものの、その後、撤収するはずの部隊が帰ったのを目撃した人はいない。かねてデモを取り締まる警官隊が北京語を話しているとの情報も流れていた(https://languagelog.ldc.upenn.edu/nll/?p=44647)。
香港に隣接する中国の深圳市では、中国本土の武装警察が集結して訓練している。彼らや人民解放軍が既に香港警察に紛れてデモ隊の鎮圧に加わっているとの疑惑も報じられている。香港行政府は否定しているが、このままデモが激化し、警察側の武力行使がエスカレートして行けば、深圳に待機している武装警察が公然と本格介入するのは時間の問題かもしれない。
●日中の「協働」は疑問
「新しい日中関係を考える研究者の会」という学者集団がある。7月に東大で行われた「米中対立」セミナーに参加したところ、静岡県立大学の諏訪一幸教授が、今後の日中キーワードは「協働」だと結んだ。
香港で市民を弾圧し、尖閣周辺海域に海警船を度々侵入させている中国と「協力して働く」とは何事かと質問したところ、同会の前代表幹事、天児慧早稲田大学名誉教授が「グローバルな世界だから協働で良い」と答えた。
その天児氏も、今回、中国での北海道大学の教授が拘束されたことには「言葉にし難い衝撃を受けた」と表明している。
7月から同会の代表幹事となった高原明生東大教授は「中国の『一帯一路』と西側が主導する『自由で開かれたインド太平洋構想』とは共存できる」と言っていたが、自由で開かれた香港が専制的な武力介入によって抑圧されるのを目の当たりにしても、同じ発言ができるのだろうか。
(2019年12月20日 一部修正)