公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2020.01.09 (木) 印刷する

中露イラン「3カ国枢軸」に警戒を 湯浅博(国基研主任研究員)

 中東から東アジアにかけて世界のパワーバランスが大きく揺れている。反米で利害が一致する中国、ロシア、イランの3カ国が昨年暮れの4日間、中東のオマーン湾沖で展開した初の合同軍事演習は、西側主要国に少なからぬ衝撃を与えた。
 ここ数年来、中露の軍事協力は格段に進んでいたことは明らかだ。これに核開発の野望をもつイランが加わったことで、「悪の枢軸」が再編されたかのような論評も出てきた。米軍がイラン革命防衛隊のソレイマニ司令官を無人機攻撃で殺害したことに、中露はただちにイラン支持に動いており、3カ国枢軸の政治的な結びつきを警戒する必要がある。

 ●ならず者国家の軍事協力
 12月30日まで実施された合同軍事演習は、海賊、テロ対策、海難救助を掲げ、規模も3勢力がそれぞれ数隻ずつと規模は小さいが、その政治的影響力はことのほか大きい。米保守派サイトの「ワシントン・フリー・ビーコン」は、この初の合同演習を「ならず者国家による軍事協力の増大」と警鐘を鳴らした。
 イラン海軍の司令官は軍事演習を「最高レベルの協力」であると強調し、「イランが孤立していないことの証明だ」と3カ国の連携を誇示した。オマーン湾は原油輸送の要衝ホルムズ海峡とアラビア海を結ぶ重要な海域だ。昨年5月と6月に日本籍船を含む複数のタンカーが攻撃を受け、米国はこれらの海域の安全を確保する目的で、有志連合の結成を呼び掛けた。
 ところが、米主導の有志連合に応じたのは、英国、オーストラリア、サウジアラビアなどに限られ、インド海軍は独自に艦船を派遣し、日本も暮れの27日に独自の取り組みとして護衛艦と哨戒機の派遣を閣議決定した。これら3勢力の合同演習は、米国主導の有志連合が貧弱であることを見透かし、逆に、彼ら枢軸の結束力を見せつけたものだ。

 ●米国の力削ぐ共通利害
 元来が不仲のはずの3カ国が、軍事的に接近することを警戒する声は以前からあった。ハドソン研究所の上席研究員のアーサー・ハーマン氏は、早くも2015年の対イラン核合意を受けて、「独裁的な修正主義国家による枢軸」を警戒し、この3勢力が中東に限らず、アジア太平洋から中南米に至るまで拡大する予兆を指摘していた(Wall Street Journal、May30,2019)。
 「連合」に対する「枢軸」は、ブッシュ大統領Jr.の政権当時、イラン、イラク、北朝鮮を「悪の枢軸」と非難して注目された。今回の中国、ロシア、イランも戦前の日独伊三国同盟のような枢軸として同盟関係を結んでいるわけではないが、互いを利用しながら自らの戦略目的に引っ張り込む構えなのだろう。
 ハーマン氏によれば、中国は当面の経済力を強化して世界の覇権を獲得しようと画策する。ロシアは超大国ゲームに残るべく地政学的な地位の回復を図る構えだ。そしてイランは、中東地域でイスラム教シーア派の革命を成就する思惑である。異なる戦略目的を持ちながら、その目的の障害となる米国の力を削ぎたいとの共通利害がある。
 これらのうちで、米国が警戒を強めるのはもっとも強力な修正主義国家の中国である。米国がシェール・オイルの産出国になって中東原油への依存率を下げた一方で、逆に中国は中東原油への依存がますます強くなっている。やがては、米国が握る西太平洋からペルシャ湾に至るシーレーン防衛体制に挑戦することになるのは避けられない。

 ●台湾狙う中国の陽動作戦
 中国にとってロシア、イランとの合同軍事演習は、1月11日投票の台湾総統選挙と決して無縁ではない。中国は総統選を前に、台湾との国交を断絶させる台湾の孤立化政策で、南太平洋のソロモンを離反させる一方で、台湾人の優遇策で引き付け、12月26日には台湾海峡を国産空母「山東」に通過させて台湾に揺さぶりをかけた。
 中国の山東が台湾海峡を通過した翌27日から、ロシア、イランと合同演習をしており、米軍は中国が関係する台湾海峡とペルシャ湾岸という2つの軍事行動を警戒しなければならなかった。中国は、中東方面でロシアやイランと連携することが可能であることを見せて、米軍が台湾に集中するのを妨害する陽動作戦になる。
 1986年に台湾で初めて実施された総統選挙では、台湾海峡へのミサイル発射実験を繰り返して威嚇し、米海軍の2つの空母打撃群に海峡を南北からの圧力を受けて引き下がった経緯がある。だが、同時に中国がロシアやイランと連携して軍を動かすことになれば、米軍はこの欺瞞行動で中東方面にも別の空母打撃群を張り付けておかねばならなくなる。
 もちろん、中国、ロシア、イランは互いを対米戦略で利用し合うソロバンづくの疑似同盟であって、相互防衛までは踏み込まないだろう。ソレイマニ司令官殺害による米国とイランの対立は、中国にとっては米軍を中東に張り付けておく効用があり、ロシアにとっても低迷してきた石油価格が上昇してくるから好都合なのだ。
 しかし、米国はじめ西側の出方によって長期的には3カ国枢軸が結びつきを強める可能性は高い。これら疑似同盟に対抗するためにも、トランプ政権はNATO(北大西洋条約機構)と再び絆を強め、日本などアジアの同盟国との結束強化を図らねばならない。