公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2020.01.23 (木) 印刷する

感染症対策に見る中国の情報開示 太田文雄(元防衛庁情報本部長)

 中国の湖北省武漢市で発生した新型コロナウイルスによる肺炎患者が、中国のみならず日本、韓国、台湾、米国でも確認されている。こうした感染症の対策として最も大切なことは「情報の透明性」である。中国での新型ウイルス肺炎蔓延をNHKの海外放送が報じた時、中国では画像が真っ暗になって消されてしまった。中国政府が記者会見を行ったのは、21日の習近平主席指示を受けて22日になって初めてである。
 一党独裁の国家は、不都合な情報の開示をためらうので対応が後手に回り、取り返しのつかない事態になって一般大衆の怒りを買うことになる。これは旧ソ連のチェルノブイリ事故からも明らかだ。

 ●危機も機会とするしたたかさ
 2003年に、やはりSARS(重症急性呼吸器症候群)が中国で蔓延した時、筆者は防衛庁の情報本部長であった。この時、人民解放軍の北京病院(301病院)に勤めていた蒋彦永医師が、中国政府が患者数や死者数を偽り、過少報告していると告発する文書を実名で書き、報道陣に送った。
 蒋医師は、その後消息がわからくなっていたが、中国系香港紙「香港商報」に登場して健在を証明した。この時、中国政府は内部告発者を保護する姿勢を示すことにより、危機(情報隠蔽)を機会(イメージ回復)に変えたのである。
 同年、明級潜水艦が一酸化炭素中毒で乗組員70名全員が死亡する事故が起こった。この時も、当時の江沢民中央軍事委員会主席以下の幹部数名が、明級潜水艦の中に勢揃いする写真を公開して、事故を起こした明級潜水艦が安全であることを示したが、実際は事故潜水艦ではない別の同型艦の中で写真を撮ったことが後に判明した。
 この時も、乗組員70名全員が死亡するという危機を、中国共産党首脳部がリーダーシップをとって潜水艦内部を安全な状態に戻したと宣伝する機会に変えたのである。しかし、実態は嘘である。

 ●北朝鮮で患者ゼロの不思議
 ことほど左様に、中国共産党の官制メディアを見るときには、余程眉に唾して見ないといけない。今回も習近平首脳部をはじめとする政府全体が、新型コロナウイルス肺炎に真剣に対処しているという報道しか流れてこないが、実態はどうか。
 海を隔てた日本、台湾、米国、それに直接国境を接してない韓国やタイで患者が確認されているのに、陸続きの北朝鮮で罹患者がゼロというのは不思議ではないか。SARSの時も、栄養失調状態の北朝鮮国民に蔓延することを当時の北朝鮮首脳部は極度に恐れていた。
 ひょっとすると中国や北朝鮮といった独裁国家は、戦争ではなく感染症への対応のまずさによって倒れるのかもしれない。