公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2020.01.28 (火) 印刷する

日本のイラン専門家に欠けているもの 太田文雄(元防衛庁情報本部長)

 米イラン関係が厳しい中、自衛隊が中東に派遣される。このような情勢からテレビではイラン問題に関して多くの専門家が意見を述べているが、その中で決定的に欠落している点がある。それは、日本の喫緊の脅威となっている北朝鮮とイランは軍事技術の交流で極めて緊密で、イランは北から兵器を購入して外貨獲得に便宜を図り、日本に間接的に脅威を与えているという点である。

 ●なぜ触れぬ北朝鮮との軍事協力
 1月19日放送のNHK「日曜討論」に出演した放送大学の高橋和夫名誉教授は最後のまとめで「経済制裁を受けているイランが可哀想だ」と述べていた。同様にテレビ出演が多い慶応義塾大学大学院教授の田中浩一郎氏も「制裁はあっても、日本はイランから石油を買ってやるべき」と主張している。
 また田中氏のほか、日本エネルギー経済研究所中東研究センター副センター長の坂梨祥氏も「殺害されたスレイマニ司令官は、米国の対アフガン作戦や対イスラム国(IS)作戦で米軍に協力したのに、もう用済みとして殺害された」と1月27日放送のNHK「キャッチ、世界のトップニュース」でイラン側に同情を寄せていた。
 しかし、こうした人たちは、イランと北朝鮮の軍事協力には触れようとしない。
 NHKは「米国がイラン核合意から一方的に離脱」と決まり文句のように報じる。そのアメリカは核合意からの離脱後、イランに12項目の要求を出しているが、その中に「弾道ミサイルの拡散防止と核弾頭搭載可能なミサイルシステムの開発停止」がある。米国の離脱には、それなりの理由があることも彼らは語らない。

 ●日本の安全保障の視点はどこに
 そして、この項目は日本の安全保障にとっても決定的に影響があるのだ。2008年にイランが発射実験したシャハブ3は即応性に優れた固体燃料で、この技術が北朝鮮にもたらされて北朝鮮の固体燃料弾道ミサイル技術が向上したとされているし、イランの軍事技術者は、北朝鮮の核実験の度に北朝鮮に出向いて軍事技術の入手に努めている。
 大量破壊兵器拡散防止関連のセミナーがあると、必ずイラン大使館員が出席し、北朝鮮とイランの軍事協力が話題に上ると挙手で発言を求め、「イラン・イスラム共和国は決して北朝鮮と軍事技術交流はしていない」と躍起になって否定する。
 しかし新聞報道によれば、2011年11月にイランのミサイル基地で起こった大爆発で、北朝鮮の技術者5名が巻き込まれて死亡している。
 また2012年4月に北朝鮮が実施したミサイル発射にあわせ、イランの代表団12名が密かに訪朝していたことが報じられ、同年12月には、「イランの軍事代表団が北朝鮮に常駐し始めた」との報道もあった。イランは、こうした報道をすべて虚偽だと言い切れるのか。
 日本のイラン専門家もまた、日本の国益や安全保障の命運がかかっているのに、何故こうした事実を語ろうとしないのだろうか。