公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2020.01.29 (水) 印刷する

「司法テロ」対策に強い最高裁を 島田洋一(福井県立大学教授)

 1月17日、広島高裁(森一岳裁判長)が、四国電力伊方原発3号機の運転差し止めを認める仮処分決定を下した。この判断の論理的欠陥については、櫻井よしこ氏奈良林直氏の優れた論考があり、そちらに譲りたい。ただ、どれほど論理で説いても、これらの裁判官は態度を改めないだろう。結論ありきの確信犯だからである。
 民主的手続き(議会の多数決)で実現できないことを、裁判官が権力乱用によって実現する。司法の皮を被った政治闘争であり、まさに「司法テロ」と呼ぶにふさわしい。従って、重要なのは「テロ対策」の充実である。下級審による司法テロを封じるには、同じ司法の枠内で最上位の権力を有する最高裁が迅速に動く他ない。

 ●大統領より強い首相の指名権
 アメリカでは、「大統領を取ることは2権を取ること」とよく言われる。大統領には、裁判官を指名する権限があり、行政府に加えて司法府の人事も握れるからである。
 日本の首相も同じ、それどころか、より強い権限を有する。アメリカでは、連邦最高裁判事の指名権は大統領にあるが、承認権は上院にある。野党が上院の多数を握っている場合、思うような人事はできない。裁判官は終身制のため、空席が生じなければ人事権を発動する機会も来ない。
 その点、日本の場合、最高裁人事は内閣の指名で事実上完結する。首相は今後、「司法テロ対策」に強い意志を持つ人物を選んでいかねばならない。
 最高裁の迅速な動きが政治的にいかに重要か、アメリカの例を引いておこう(もっともこの場合、テーマは火力発電所で、「行政テロ」が問題となっている)。
 2015年8月3日、オバマ政権が、「クリーン発電計画」(Clean Power Plan)の実行を各州に指示した。計画の柱は、発電所から出る二酸化炭素を15年以内に2005年比で32%削減することだった。
 法案の形では当時の野党・共和党多数の議会を通らなかったため、既存の「大気浄化法」に基づく大統領命令の形が取られた。行政の裁量の範囲内との主張だった。これに対し、多数の火力発電所を有する州で強い反発の声が上がり、8月13日、27州が、命令の無効確認を求める訴訟を起こした。同時に、執行停止を求める仮処分申請も行っている。
 並行して議会では、上院が52対46(11月17日)、下院が242対180(12月1日)で、事実上「クリーン発電計画」を無効化する決議案を通した。しかし、オバマ大統領は拒否権を発動し、行政命令を強行する姿勢を変えなかった。

 ●迅速な行動が重要となる所以
 翌2016年2月9日、連邦最高裁が、下級審判決が出るまでの間、「クリーン発電計画」を執行停止にするという仮処分決定を下した。保守派5人、リベラル派4人という構成を反映した、5対4の1票差の決定だった。この4日後、保守派の重鎮スカリア判事が急死しており、きわどいタイミングだった。
 多数意見の背後には、同計画は違憲とする判断があったとされる。米最高裁は7、8、9月の3か月は夏休みのため、10月初めの参集から約4カ月での決定だった。
 その後、2016年11月の大統領選挙で共和党のトランプ氏が勝利、翌2017年1月の政権発足後、オバマ前政権の行政命令は無効化された。
 もし最高裁の仮処分がなく、オバマ氏の命令が有効であり続けていたとすれば、電力会社は火力発電所の一部廃棄を念頭に、代替エネルギー源の確保に向けた新たな投資を迫られていただろう。一旦その方向に走り出せば、政権交代があり、中央の方針が変わっても、もう方向転換はできない。最高裁の迅速な行動が重要となる所以である。