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2020.02.25 (火) 印刷する

新型肺炎の経済リスクは不安心理の伝播 大岩雄次郎(国基研企画委員兼研究員)

 経済ショックが起きた時、不安心理のコンテイジョン(伝播)が実態以上の影響を及ぼすことは、アジア経済危機を契機とした様々な影響分析を通して指摘されている。
 新型コロナウイルス肺炎も、その正体が不明である故に不安心理は拡大しており、それに伴う経済活動の縮小が加速している。
 新型肺炎による中国経済の停滞は不可避である以上、日本経済への影響は小さくないが、危惧すべきは、不安心理が実態以上の経済損失に拡大するリスクである。不安心理の伝播を最小限に抑えるための方策を講じる必要がある。

 ●リーマンショックの教訓に学べ
 2008年のリーマンショックが世界規模で、また2010年のギリシャ財政危機がヨーロッパを中心に金融資本市場を揺るがす危機に発展したことは記憶に新しい。
 2007年のサブプライム問題で起こった米国の住宅バブル崩壊は、2008年になってさらに広範囲の資産価格の下落を招き、リーマン・ブラザーズの破綻という負債総額約6,000億ドル(約64兆円)の史上最大の企業倒産につながり、連鎖的に危機が世界に広がった。
 リーマンショックの発生時は、どこにサブプライム商品が隠れているのか、金融機関にどのくらい損失が生じているのかが分らず、信用不安のコンテイジョンが起きた。
 市場参加者の疑心暗鬼という不安心理が金融機関同士の資金取引を抑制し、市場機能の麻痺を引き起こした。米国への輸出依存が高かった日本はサブプライム問題による傷みは小さいと思われていたが、製造業は必要以上に生産を控える心理的なオーバーシュート状態に陥り、実体経済の落ち込みが先進国で最大となった。
 ギリシャの財政危機も、コンテイジョンが大きく作用したと思われる。ギリシャの経済規模は約31兆円とユーロ圏のGDPの2.6%(2009年)を占めるに過ぎないが、背景にはギリシャの深刻な財政危機があり、類似した財政状況にある他の国々へ伝播した。
 財政規模で小さな国の危機がより規模の大きな国の危機へと発展し、ギリシャへの貸出が多い金融機関の経営悪化、破綻等を通じて、金融システム全体に影響を及ぼすというコンテイジョンが市場で強く意識された。

 ●日本経済の堅調な足元に目を向けよ
 前車の轍を踏むことなく、新型肺炎の実態以上の影響を抑制するには、不安心理の伝播の抑制が重要な鍵を握っている。
 新型肺炎は、いまだ終息どころか、ピーク時期も見通せていない。したがって、現時点で新型肺炎による最終的な経済的損失の規模をあげつらうことに意味はなく、説得力を欠く議論そのものが消費者のマインドを冷え込ませかねない。政府は、目先の経済的利害より、終息に向けた強い姿勢を一層明確にする必要がある。
 足元の経済状況は、新型肺炎の感染が拡大する中、比較的底堅い動きを示している。日本経済の底堅さは、新型肺炎が拡大している中でも為替が円高に動いていないこと、企業の業績見通しも決して悪くないことなどに表れている。米国経済も基本的に堅調に推移している。今こそ、コンテイジョンによる経済活動の棄損を避けなければならない。
 先行きは楽観できないが、新型肺炎の発症事例、病状の確率分布、感染経路等の正確な情報発信によって、不安心理を和らげ、必要以上の経済活動の抑制を回避することが重要である。