公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2020.03.05 (木) 印刷する

国際機関信奉神話からの脱却を 太田文雄(元防衛庁情報本部長)

 今回の新型コロナウイルス対策で、日本政府が初動に失敗した最大の原因は、中国に忖度した発言ばかりしている国際機関の世界保健機構(WHO)を信じ過ぎたことである。
 世界にウイルス患者が蔓延し始めた1月末の段階で、WHOのテドロス事務局長は緊急事態宣言を躊躇った。しかし、国際機関を信用していない米国や台湾、それにオーストラリアは、その時点で全ての中国人の入国を禁止した。現在WHOの調査チームが中国で新型コロナウイルスの発生源を調査しているが、その中に米国の疾病予防管理センター(CDC)の調査員が入ることは中国政府によって拒否されている。
 未だに、日本は中国の湖北省、浙江省以外の中国人の入国を制限していないばかりか、韓国も大邱市と慶尚北道の一部地域以外については韓国人の入国を制限していない。このため、新型コロナウイルスを発生させた中国の北京や上海では、逆に日本人入国者が2週間留め置かれる措置まで採られている。
 こうした失態は、戦後日本の国連中心主義、国際機関信奉神話によって生じている。速やかに脱却する必要がある。

 ●強まる中国のコントロール
 ドイツの統計ポータル・サイトであるStatistaが発表した2017年時点での対中国負債世界地図によれば、テドロス事務局長の母国、エチオピアは中国にGDPの10~25%にあたる負債を抱えている。テドロス氏は、WHO事務局長に就任する前、エチオピアの外務大臣であった。
 国際民間航空機関(ICAO)の 柳芳代表は中国籍であるが、台湾に冷たいことは有名である。2018年に中国に帰国中、収賄の容疑で逮捕された国際刑事警察機構(ICPO)のトップ、孟宏偉氏も中国籍であった。
 日本が主導するアジア開発銀行(ADB)の総裁は歴代日本人であるが、本部はフィリピンのマニラに置いている。これに対し、中国主導のアジアインフラ投資銀行(AIIB)は総裁が中国人であるとともに本部も北京に置いている。
 国際連合教育文化機関(UNESCO)で南京大虐殺に関する資料を無形文化遺産とした2015年時点でのボコバ事務局長は、やはり中国に近いブルガリアの出身であった。
 今世紀になってから、日本は国連安全保障理事会の常任理事国入りを目指して運動を展開してきたが、大票田であるアジア・アフリア諸国を買収して、これを妨害してきたのは中国であった。
 以上の事柄は、いかに中国が国際機関を自国の国益に沿うようにコントロールしてきたかの証左である。

 ●国連至上主義を再考せよ
 米国などは、国連のような国際機関を全く信用していないのに対し、日本政府は戦後一貫して国連中心主義を掲げてきた。嘗て自民党の幹事長であった小沢一郎氏や加藤紘一氏(故人)は「自衛隊の海外派遣は国連のお墨付きがある場合のみ」と自国の政府決断よりも国連の決議を優先する発言を行ってきた。
 中国におもねるばかりの国際機関に対しては金銭的、人的貢献も再考した方が良い。