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2020.03.23 (月) 印刷する

コロナ対策はまず倒産・失業の回避を 大岩雄次郎(国基研企画委員兼研究員)

 新型コロナウイルスの世界的感染拡大による景気悪化への懸念や金融市場の動揺を受けて、国内では政府の財政出動による大規模景気対策への期待が高まっている。
 ただ、今回の景気後退懸念は、ウイルス感染拡大がもたらした需要、供給に対する一時的ショックであり、2008年のリーマン・ショックのような経済の基礎的条件の悪化によるものではない。したがって、治療薬やワクチン開発に目途が立たない限り、完全終息は見通せない。
 今、全力で取り組むべきことは、一時的ショックに対する的確で、迅速な対策の実施により倒産と失業を防ぎ、ショックの恒久化による長期停滞を阻止することである。

 ●果敢かつ迅速な実施が必要
 米連邦準備理事会(FRB)は15日、政策金利を1.0%下げて、2008年の金融危機以来となる実質ゼロ金利とし、量的緩和政策も復活させた。日銀も16日の金融政策決定会合で、約3年半ぶりに追加金融緩和を決めた。
 しかし、それでも株の下落に歯止めはかかっていない。当然、金融政策ではコロナウイルスを駆逐できるはずもなく、そもそも今回のコロナショック以前から、金融緩和政策の限界が露呈していた。
 関心は財政政策に移っているが、必要な財政政策は倒産や失業の回避に集中し、迅速に実施することであって、政策効果の小さいバラマキ的な政策は慎むべきである。
 そもそも、経済活動の急速な収縮は、グローバルサプライチェーンの要である中国での操業停止による「供給ショック」と、各国政府が実施している入国規制やイベント自粛要請などによる消費者と企業の支出抑制による「需要ショック」によるものである。単に、金融・財政政策を出動しても、両ショックを早急に解消することはできない。
 ただ、この状況が長引けば、株価の下落や金融機関・企業の財務状況の悪化による債務不履行や倒産を誘発し、連鎖倒産や大量失業から金融危機に発展しかねない。
 今回は一部産業に特に深刻なショックが引き起こされ、それが経済全般に波及することを考慮しつつ、影響の大きな地域や業種に対して、政府による資金繰り支援や失業給付・所得補償などの緊急的な救済措置を、果敢にかつ迅速に実施することが必要である。

 ●消費減税や現金給付は的外れ
 現下の消費減少は、意図的な消費活動の抑制によるものであり、個人の需要が減少したわけではないので、消費税減税をしても消費が増えるとは考えにくい。まして、例えば年金受給者など所得の減少していない人も多くいることを考えれば、一律的で、恒久的な政策はとるべきではない。主要国で消費税減税を掲げる国は見当たらない。
 本当に必要とする個人への失業給付・所得補償や企業への資金繰り支援で対応すべきであり、一律の現金給付は単にバラマキにすぎない。将来の財政負担を増加させるだけである。
 これまでも現金給付が実施されてきたが、その効果は極めて限定的であることも検証されている。内閣府の調査によれば、2009年の「定額給付金」による消費増加効果は「受給額の25%分に相当する消費増加」であった。1999年の「地域振興券」もほぼ同様の結果であった。
 内閣府は、近年、EBPM(証拠に基づく政策立案)への取り組みを標榜している。一律の現金給付を実施するとしたら、自ら掲げている「証拠」との整合性をどのように説明するのか。

 ●「出口」を俯瞰した政策を
 コロナ感染症は必ず終息する。終息の目途が立った時、今後取り組むべき課題が浮き彫りになる。各国とも中国リスクともいうべき問題を強く意識することは必然である。中国に過度に集中するサプライチェーンの見直しを契機に、これまでのグローバル化は安全保障を軸として見直さざるを得ない。
 また、人と人の接触を回避しつつ経済活動を行うために、先進国の中で遅れている経済活動のデジタル化の促進は不可避であり、働き方改革を一気に進める好機でもある。
 政府は、昨年には事業総額26兆円、真水の財政支出で10兆円弱の大型経済対策を決定し、2019年度補正予算に加えて、2020年度の当初予算の中にも、これは既に盛り込まれている。単なる追加対策では意味があるとは思えない。日本経済の新たなフェーズに対応する対策が必要である。