河野太郎防衛相が3月24日の閣議後の記者会見で、武漢ウイルスに関し政府高官や専門家会議の委員らが使う「クラスター」や「オーバーシュート」といった片仮名用語を日本語に置き換えるよう呼び掛けた。これは一般性を持った重要な問題提起である。
河野氏は、「ご年配の方をはじめ、よく分からないという声を聞く。日本語で言えばいいのではないか」と指摘し、自身のツイッターでもかねて「クラスターは集団感染、オーバーシュートは感染爆発、ロックダウンは都市封鎖ではダメなのか」と再考を促していた。
自民党の二階俊博幹事長も記者会見で「英語やフランス語で言って本人はいい気分になっても、相手が理解しなければ何にもならない。政策は理解され、協力を得られるように努力することが大事だ」と苦言を呈したという。
●適切な和訳も専門家の仕事
クラスターは小規模感染集団、オーバーシュートは爆発的患者急増を指すらしいが、そう日本語で表して何の不都合もない。「爆発的患者急増」が長ければ「爆増」とでも略せばよい。原子爆弾を原爆とする類である。最初は耳慣れなくとも、漢字を見れば高齢者でも、というより漢字に弱い若者より高齢者の方がむしろ素早く理解するだろう。
私は当初、クラスターと聞いて、片仮名発音ゆえ綴りは不分明なものの、多分、房を意味するclusterだろうと思いつつも、クラスター爆弾(集束爆弾)の連想から爆発的感染拡大のことかと誤解した。しかしそれはオーバーシュートの方らしい。ちなみにovershootは弾の上方への撃ち損じにも使う表現で、その方がイメージ的にすんなり来る。この単語から「爆発的患者急増」を想起する人は一般にはまずいないだろう。適切な和訳を提示するのも専門家の仕事のはずだ。
●背後に「ケムに巻く」狙いも
自戒を込めて言えば、英語をある程度読めるが会話には自信がない人に限って、英単語を話の中に散りばめたがる。本当に英語のできる人(河野氏もその1人だ)は、そうした顕示的使用はしない。
なお片仮名用語は、役所の文書や説明で旧套墨守的対応に「新政策」の装いを与えたり、「ケムに巻く」目的で使ったりすることが往々にしてある。当事者が半ば自嘲的に、なかばエリート意識を持って「霞が関文学」と称する話法の一つである。
河野氏の問題提起を機に、全面的に洗い出し、歯止めをかけていきたいところだ。