公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2020.04.24 (金) 印刷する

戦時モードへ発想転換を 太田文雄(元防衛庁情報本部長)

 政府の緊急事態宣言から2週間を経過したが、新型コロナウイルスの患者数は一向に減少する気配がない。5月6日までに収束する兆しは見えず、長期戦を覚悟しなければならない。
 一方、北朝鮮の生物化学兵器からの脅威に備えてきた韓国や、中国の侵攻を何時受けるか判らない台湾など、常に敵と向き合って対策を練ってきた国々は、これまでウイルス感染の拡大防止でも見事な対応を示してきた。
 翻って我が国は、高性能マスクや防護服など戦略物資ともいえる医療器材の調達を「安全保障よりも経済優先」として他国の生産に委ねてきた。そのツケを今、支払わされている。過去に経験したことがないような危機にあって我が国は、公衆衛生専門家主体の平時モードからを戦時モードに発想を転換して戦略を練る必要があろう。

 ●正確な戦況把握なく戦はできず
 まず、正確な戦況把握なくして効果的な戦いはできない。敵はウイルスであるが、現実にはウイルスに感染した人が何処にどれだけいるか、時系列で、その増減傾向をしっかりと把握しておく必要がある。
 一般外来患者として診療にあたっていたら、後に陽性と判明することが最近頻発して医療従事者の戦力を削ぐ結果にもなっている。慶応病院では一般病棟の患者の6%が新型コロナに感染していたと報じられている。こうした状況を正確に把握するにはPCR検査をあまねく行う体制を構築しなければならない。
 敵(ウイルス)の攻撃を受けても敗北しない抗体の保有者が、何処にどれだけいるかを把握する抗体検査による戦況把握も重要な点である。それによって勝ちにつながる戦略が可能になる。
 戦略で重要な防御手段である治療薬については、一定の効果が認められる薬も出てきていることから、戦時モードで投薬していけばいい。敵戦力を増大することに繋がる3密(密閉、密集、密接)の違反者に対しては孫子の兵法にある「(敵を増殖するような)交わりをつ」ための強制力を発動する法的整備を行うべきだ。マスクは「伐交」の手段でもある。

 ●平時と異なる一致団結と我慢
 さらに、攻撃兵器(ワクチン)の開発も平時のお役所仕事ではなく、戦時モードで資源の集中を図っていく必要があろう。手洗いや消毒液も攻撃兵器と捉えるべきだ。
 最後に出口戦略として、どのような形で戦時を収束させていくのかを構築する。ウイルスを殲滅することは不可能なので、ウイルスと共存し、せいぜいインフルエンザの死亡率程度に抑え込む状態を目指すべきであろう。
 そして中長期の戦略として、何故今回のウイルスが拡散したのか原因を究明し、再び同様のことが起こった場合に対処していく。その一つには衛生・医療器材を戦略物資としてサプライチェーンを他国に委ねないことも含まれる。
 こうしたことを考えれば、「マスク配布は無駄」とか「減収世帯に30万円支給」を「全国民一律10万円支給」にしたのは「朝令暮改」としたり、総理が自宅でくつろぐインスタグラムを揶揄する野党やマスコミを相手にしたりして己の戦力を浪費する暇はない。
 戦時には、平時と異なる国民の一致団結と我慢が強いられる。