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2020.05.12 (火) 印刷する

韓国保守が突き付けられる深刻な課題 久保田るり子(産経新聞編集委員・國學院大學客員教授)

 韓国ギャラップ社の最新世論調査(5月8日発表)で文在寅大統領の支持率は71%と急上昇した。70%を超えたのは2018年7月以来である。
 就任3周年を迎えた5月10日の特別演説で文氏は「世界をリードする韓国」をキーワードに熱弁をふるった。また、国の疾病管理本部を「疾病管理庁」に格上げし、国立感染症研究所を設立すると自ら発表するなど「新型コロナウイルス制圧」で手にした高支持率を背景に「公衆衛生体系や感染症対策を画期的に強化する構想」をアピールした。

 ●「約束手形」乱発する文政権
 4月15日の韓国総選挙で与党「共に民主党」が大勝利を収めて以来、文氏はSNSを使って精力的に発信し、政権も続々と新構想を打ち出している。
 メーデー(5月1日)には「労働者はもはや韓国社会の主流となった」と「労働者の韓国」を称え、新型コロナに対する政府の「中央災害安全対策本部」が稼動100日となった5日には「韓国の防疫は世界の標準」とSNSに高らかに書き込んだ。
 経済政策の失策からの反転を目指す文政権は「韓国版ニューディール政策」を打ち出している。新型コロナウイルスの感染拡大で突きつけられた非対面、デジタル化の急激な社会・経済両面からの要請に合わせ、経済革新と雇用創出を図るという。人工知能(AI)による遠隔教育や非対面医療のモデル事業拡大などを進める方針だ。
 「労働者中心」「防疫」「ニューディール」に「AI」とキラ星のごとく言葉が連呼され、文在寅陣営のイメージ戦略は花盛りの様相である。ただ、いずれも約束手形である。「労働者の時代」にしても「ニューディール」にしても、うまくいく保証はない。

 ●未来像もリーダーも不在の野党
 5年任期の大統領制で総選挙は4年に一度。この直接選挙制(第6共和国憲法、1987年10月29日制定)になって以来、韓国の有権者は政権の中間評価として総選挙で与党をけん制してきた。しかし今回、韓国国民は保守にそっぽを向き、バランス感覚が発揮されることはなかった。
 保守野党は結束できず、醜態をさらした。ビジョンがなく、政策を示せなかった。文政権の対抗勢力として価値を見出されることなく、保守は岩盤支持層にも見限られた。未来統合党は「文在寅は気に食わないが、統合党はもっとダメだ」と言われ、70激戦区のうちの3分の2で負けた。
 韓国のニュートラルな政治学者は次のように解説する。
 「これまで韓国では保守政治家はいろいろ問題があっても政治勢力としては有能ということになっていた。だが、この常識が崩れてしまった。国民が納得して文在寅政権に力を与えたわけではない。韓国の危機はここにある。いまの保守には未来像がない。リーダーがいない」

 ●次期大統領選は進歩優位の様相
 「文在寅の左派独裁論」「親北・従北論」「米韓同盟危機論」「所得分配政策の失敗」は保守野党、未来統合党が現政権を批判する中心的主張だったが、有権者には説得力を持てなかった。「もはやこうした古い保守論で韓国の有権者は動かない」(前出の政治学者)というのである。反共親米は旧態依然の守旧フレームで「腐敗した昔の保守」を想起させるからだ。
 それでも文在寅氏が側近として仕えた盧武鉉大統領の時代には、「進歩の無能」に気づいた韓国有権者が財閥出身の「経済大統領」李明博氏を選んだ。だが、ポスト文在寅にこうした揺り戻しが起きるかどうかは分らない。
 すでに韓国の主流は保守から進歩に変わったとみる学者もいる。惨敗した未来統合党はいまだ混乱の中にあり、立ち直りの兆しすらみえない。反日を振りかざし、習近平の中国にすり寄り、金正恩の代弁人となって米国には面従腹背の態度をとる文在寅政権。そんな政権に「新しい韓国」をつくったと言わせていいのか。韓国の保守が突き付けられている深刻な課題だ。
 韓国はコロナ規制緩和で第2波の集団感染が起きた。当面はコロナ対策に人々の目が奪われ、文政権の独壇場が続くだろう。次期大統領選挙は保革のどちらが制するのか、圧倒的に進歩の優位でその闘いが始まっている。