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2020.05.18 (月) 印刷する

検察庁法改正案で問われる報道姿勢 有元隆志(産経新聞社正論調査室長兼月刊「正論」発行人)

 朝日新聞の名物コラム「天声人語」の決めつけ好きな体質はいまも変わらないようだ。5月12日付では、検察官の定年を延長する検察庁法改正案を批判するなかで「ときの政権の覚えめでたい人の特別扱いが常態化すれば、検察の牙が抜かれる。(法案反対は)当然の危惧であろう」として、東京高検の黒川弘務検事長の定年延長問題を引き合いに出した。
 昭和55年7月に成立した鈴木善幸内閣は防衛力強化の方針を打ち出し、8月15日には閣僚18人が靖国神社に参拝したが、この動きを政府・自民党対民衆の綱引きにたとえて「強引に綱を右へ引っ張り出した」と書き、「右傾内閣」と決めつけたのも「天声人語」だった。
 学習院大学の香山健一教授(故人)は当時、産経新聞の「正論」欄で「『右寄り』とか『右傾化』というような不正確で幼稚なレッテル張りや報道の仕方を中止したときにはじめて、日本の将来をめぐる論争は、創造的、建設的なものになるであろう」と朝日報道を批判した(『昭和正論座 何も変わらない日本』産経新聞出版/扶桑社)。

 ●「官邸の人事関与」は本当か
 検察庁法改正案をめぐる報道について15日夜、櫻井よしこ氏が主宰するインターネット放送「言論テレビ」に出演した安倍晋三首相と櫻井氏の間で次のようなやりとりがあった。
櫻井氏「安倍政権に近いとか優しいわけでもないにも関わらずメディアは『安倍政権に近い』ということを枕詞のように書いている。正しいと思われますか」
安倍首相「イメージを作り上げているんだろうと思います。全く事実ではありません。黒川さんと2人でお目にかかったこともありませんし、個人的な話をしたことも全くありません。私も大変驚いているわけなんです。黒川さんも検事としての矜持を持ってさまざまな事件の対応をしてこられたと思います」
 黒川氏の定年延長について、産経新聞政治部の水内茂幸次長は月刊「正論」5月号で、「官邸は本当に(検察の)人事に手を突っ込んだのだろうか。黒川氏が政治に絡む事件に積極的に取り組む“武闘派”であることを踏まえると、野党のシナリオに無理がある」と書き、黒川氏が東京高検検事長として、カジノを含む統合型リゾート施設(IR)をめぐる汚職事件で、約10年ぶりに国会議員を逮捕した捜査指揮を一例として挙げている。水内次長はまた、改正案提出の経緯にも触れ「あくまで検察側が内部で調整した末に、黒川氏の定年延長案を作った」とする政府関係者の証言も紹介している。

 ●レッテル貼りより事実の証明を
 検察庁法改正案をめぐっては、芸能人もツイッターで反対の声を挙げたこともあり、朝日新聞などが大きく取り上げた。不思議なことに5月はじめの世論調査では各社とも法改正については質問項目として取り上げず、新型コロナウイルス問題や憲法改正が中心だった。「共同通信社の直近の世論調査では感染拡大で生活に不安を感じているとの回答が『ある程度不安』も含め8割を超えた。こうした状況下で検察庁法改正を急ぐ政権の態度は、あまりにずれているとしか思えない」(新潟日報13日付)と、異なる調査を引き合いに社説で法改正反対の論陣を張った新聞もあった。
 政権批判は構わないが、黒川氏の人事に「官邸の介入があった」と決めつけ、法改正は時の政権による捜査介入を許しかねないと信じるなら、単なる「レッテル張り」ではなく、取材で事実関係を証明するのが報道機関としての務めだろう。