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2020.05.20 (水) 印刷する

日本原燃の再処理工場「合格」の意義 奈良林直(東京工業大学特任教授)

 原子力規制委員会は5月13日、青森県六カ所村に建設された日本原燃の再処理工場の安全審査で「審査書案」を取り纏めた。これは、2011年3月の福島第一原子力発電所の過酷事故を踏まえた厳しい新規制基準に対する追加要求も満たし、再処理施設としての事実上の安全審査の合格に相当する。今後、一般の意見公募(パブコメ)を経て、今夏中に正式合格となる見込みである。

 ●原発40基分の使用済み燃料処理
 再処理施設の規模は、原発数基分の膨大な機器や配管、タンクなどからなり、硝酸を使ってウランペレットを溶かす溶解槽や、高レベル廃棄物を電気により加熱してガラスに溶かし込む「メルター」などの特殊な設備を有するため、六カ所村の広大な敷地に建設されている。
 再処理施設自体は、1997年に完成するはずであったが、「メルター」での作動トラブル等があり、24回もの完成予定日の変更がなされた。2006年からは、最終的な運用試験が開始された「メルター」などの運転にも習熟し、2008年2月には実際の使用済み燃料から取り出した放射性物質を使った「アクティブ試験」も終了していた。
 しかし、福島第一原発事故以後、新たに策定された世界一厳しいとされる新規制基準をもとに、規制委員会が6年にわたる審査を行っていた。今後は、新規制基準で追加になった種々の安全対策設備の追加工事認可とそれに続く工事、使用前検査を経て、地元自治体の了承を得て、再処理工場が稼働することになる。
 緊急時対策所の追加、戦闘機を含む航空機落下対策など、追加になった施設も多く、建設費は2兆2000億円から約3兆円に膨らむが、我が国初の再処理施設で、これが稼働すると全国の100万キロワット級の原発40基分に相当する使用済み燃料(ウラン換算で年間800トン)を処理できる能力を有する。

 ●高レベル廃棄物の処理でも貢献
 我が国の核燃料サイクルにおいて、使用済み燃料が再処理されることによる意義は大きい。現在、我が国の各発電所には、多数の使用済み燃料がプール中の格子状ラック(棚)に挿入されて保管されている。この使用済み燃料プールが満杯になるのを防ぐため、使用済み燃料の冷却が進んだものは、キャスクと呼ばれる金属製の空冷遮蔽容器に収納されて保管されている。
 これを「乾式貯蔵」と呼ぶが、いつまでもこの状態で地上に保管することは、好ましい状態とは言えない。広大な敷地がある米国の原発では、コンクリート製のキャスクが草原に多数並び、鉄条網で人が立ち入れないように管理しているが、長期にわたって、これを続けることは後世への負担となる。
 このため再処理工場では、使用済み燃料を裁断機で細かく切断してから硝酸で溶かし、ウランやプルトニウムなどの再利用できる燃料を取り出す。高レベル廃棄物は、ガラスに溶解させてステンレス容器(キャニスター)にいれて、空冷し、十分に冷えたら地下のトンネル内の穴に挿入する。燃料として使えるウランやプルトニウムは混合酸化物(MOX)として取り出し、プルサーマルとして軽水炉の燃料にする。核燃料のリサイクル開始である。
 高レベル廃棄物をガラス固化体にすることにより、埋設処分場の規模は数分の一になるため、3兆円かけてもコスト的には十分に投資分を回収できる。使用済み燃料をキャスクに入れてそのまま処分する「直接処分」に比べ、キャスクの腐食などの心配も軽減し、安全性も向上する。
 また、埋設した高レベル廃棄物の放射能が十分に減衰する期間も、半減期が長いプルトニウムが取り除かれるため、10万年から数千年に短縮される。このように使用済み燃料の再処理のメリットは大きく、再処理工場の稼働の意義は非常に大きい。

 ●「高速炉」の将来利用も視野に
 再処理工場の基本的技術はフランスのものである。しかし、「メルター」は日本原子力研究開発機構(旧動燃)の再処理研究施設の技術を応用した。しかし、その際、「メルター」の前段にある沈殿槽と呼ばれるタンクを1つ減らしていた。不溶解残渣ざんさを沈殿させて取り除くためのタンクで、コストダウンのつもりであったが、これが裏目に出た。
 不溶解残渣は、白金やパラジウムなどの白金族と呼ばれる金属が主成分のため、これを高レベル廃棄物と一緒に「メルター」に流し込むと、この金属に電流が流れ、ガラスを均一な温度に加熱することが困難になったのである。これが「メルター」の安定運転を達成するのに長い年月を要した理由である。
 この金属は沈殿槽で分離して、ある期間保存し、放射能が低下してから、燃料電池車の白金触媒などに利用することも可能である。ゴミから宝が出てくる。
 核燃料サイクルの再処理工場が運転を開始すると、ウランとプルトニウムのMOX燃料として利用できるようになる。「我が国が原爆の原料となるプルトニウムを多量に貯め込むのはけしからん!」といった国際的な非難があると喧伝されているが、それは慰安婦問題を世界に向けて発信した組織と同じ反原発グループによるものだ。米国の反原発議員に誤った情報を流し「けしからん!」と言わせる「ワシントン拡声器」である。ネット上には彼らの活動が得意げに公開されている。
 河野太郎防衛大臣は、外務大臣当時の2018年6月、頼まれもしないのに国際原子力機関(IAEA)に向けて「日本はプルトニウムを削減します」と大臣会見で見えを切った。河野談話を出した父親の河野洋平氏と同様、周りが見えていない。IAEAは、我が国の再処理開発はきちんと国際ルールを守り、優等生だと「お墨付き」を与えてきたのだ。
 田中俊一前原子力規制委員長も「我が国には軽水炉に比べてコストの高い高速炉は要らない。高速炉が要らないから再処理施設も要らない」と講演会などで発言を続けているが、自らの不見識を曝け出している。「もんじゅ」の炉心に高レベル廃棄物を入れて燃料とすれば、中性子を浴びて別の物質に変わる。保管期間は数千年から300年まで短縮できる。そうなれば地層処分場も大幅に簡素化できるし、後世の負担も軽くなる。