公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2020.06.08 (月) 印刷する

電通依存と役所の足腰劣化 細川昌彦(中部大学特任教授)

 新型コロナによる売り上げ激減の中小企業などに給付する持続化給付金を巡って国会でも大問題になっている。769億円の事業を一般社団法人「サービスデザイン推進協議会」が受託し、その97%にあたる749億円が広告最大手の電通に再委託されている。
 これに対して、この協議会が不透明で、実体のない“幽霊法人”“トンネル法人”ではないかと報道されている。さらに政権と電通の癒着だと批判されている。果たしてそうした疑念はあるのだろうか。まず事実をきちんと押さえるべきだ。

 ●なぜ再委託が必要なのか
 この事業は、対象が150万件という過去に例のない規模の事業で、システマティックに早く給付することが急務だ。確かに5月1日から申請の受付を始め、現在すでに100万件を超える振込みが行われた。
 10万円の個人給付金の方は、市区町村の受付で難航してなかなか給付が行き届かず、東京都の休業協力金もいまだに支給は申請の1割にも満たないという。これらと比較すると、持続化給付金は迅速に処理できているようだ。
 確かにこの業務の効率的執行は過去に補助金支給などの経験、ノウハウがなければ無理だろう。この協議会は2016年に電通、人材派遣大手パソナなどによって設立され、企業出向者によってこれまで4年間に13件の補助金事業を受託している。
 しかも迅速処理のために2900人の審査員を雇って審査をし、オンライン申請に不慣れな事業主をサポートするために全国500カ所に5600人、コールセンターに350人を支援要員として配置している。これにはノウハウが必要だ。約9000人の現場作業は電通などに外注し、協議会の方は、そうした全体システムの企画や工程管理、振込業務といった「中核業務」を担うという役割分担だ。これをもって実態のない“幽霊法人”“トンネル法人”と評するのはいかがなものか。
 次に、冒頭で紹介した再委託後に協議会に残る20億円の内訳であるが、約150万件分の給付金の振込手数料(15.6億円)や事務管理の人件費(1.2億円)などに充てられるという。これを“中抜き”と言うのはどうだろうか。

 ●深刻な霞が関の構造問題
 ただ、この事業自体は合理的な説明がなされても、見逃してならないのは、もっと根深い構造的な問題である。それは霞が関全体で補助金行政が長年外注化され続けた結果、電通依存の構造が出来上がってしまっていることだ。決して安倍政権と電通の癒着といった問題ではない。
 かつては地方の経済産業局がこうした現場の実務を担っていた。しかし15年以上前から行政改革の一環で企画立案と実施機能を分離して、後者は公務員削減と民間活用の方向となった。行政の効率化としては正しい方向だろう。しかし長年続いた結果の弊害にも目を向けなければならない。
 補助金行政について全国規模での受託能力ある企業は限られる。その特定企業にノウハウがたまり、それを評価してさらに委託が続く。これが入札価格だけでなく「総合評価」としている中身だ。こうした補助金ビジネスは企業情報の宝庫であり、電通にとってもその蓄積メリットが大きいので社内リソースをますます投入する。
 こうしていつの間にか競争原理が働かず、電通依存の構造になったのだ。入札額の公表といった情報開示でこの根深い構造が解消されるものではない。
 さらに役所の現場実務の足腰も弱り、自分の足では歩けない体質になってしまった。こうした外注による足腰の弱体化は補助金行政だけではない。産業行政でも企画立案に直結する産業実態の調査、分析を民間シンクタンクに依存する、かつては考えなれない情けない状況だ。
 新型コロナは日本のさまざまな構造問題をあぶり出している。いつもながらの印象操作でスキャンダル仕立てに血道を上げるのではなく、こうした霞が関の深刻な構造問題にこそ政治家、メディアは目を向けるべきだ。