日本の経済情勢を分析する国際通貨基金(IMF)の対日報告書(1月10日公表)によれば、高齢化と人口減少は生産性と成長を押し下げ、現行の政策を続けた場合、40年後の実質国内総生産(GDP)が25%下振れする可能性があると警告している。
一般に、経済成長(GDPの増加)は、生産要素である労働の増加及び資本、並びに全要素生産性(TFP:Total Factor Productivity)の増加による部分に分解できる。資本及び労働が投入量の効果を表すのに対して、TFPは生産の質による効果を表している。
TFPは、生産要素以外でGDP増加に寄与する部分であり、技術革新、無形資本の蓄積、経営効率や組織運営効率の改善等を表すと考えられる。中長期的には、労働供給は人口の制約を受け、資本ストックを形成する投資はGDPの範囲内となることを考えると、一国の経済を持続的に成長させていくには、TFPを高めることでGDPを大きくする必要がある。
●労働と資本頼みには限界
技術革新が起こると、資本や労働の投入要素が一定であっても、多くのGDPを生み出すことができるようになり、生産要素あたりのGDPを高めることから、技術革新は生産性向上の源泉と考えられている。
経済成長の生産要素である労働については、周知のとおり、急速な人口減少が予想されている。総務省の「労働力調査年報」(2016年)によると、2016年の労働力人口は6,648万人であったが、それぞれの年齢階級の人口に占める労働力人口の割合が2016年と同じとした場合、2017年の「将来推計人口」から将来の労働力人口を算出すると、2065年には3,946万人となり、2016年と比較して4割ほど減少すると見込まれている。
資本についても、2019年国民経済計算年次推計(ストック編)によると、固定資産残高(実質)は、2007年に1697兆円、2017年に1678兆円と、この10年間、増加するどころか、減少している。つまり、この10年間の日本の設備投資は、減価償却を補填する規模に留まっている。したがって、現状では、設備投資の大幅な増加は見込みにくい。
この状況は、厚生労働省「2019年財政検証」からも裏付けられる。6通りのケースの年金財政の収支計算が示されているが、いずれの場合においても、TFP成長率がゼロであるとすれば、つまり、経済成長率が労働と資本の寄与だけで決まるとすれば、日本の長期的な成長率はマイナスになると予測されている。
●ICT、産業と利用の共創がカギ
TFPの引き上げには、デジタル革命、つまりデジタル産業の育成と知的及び人的無形資産の拡充によるデジタル技術の汎用化、デジタル技術を基盤とする働き方改革による組織運営効率の向上により労働力不足を補うなどの対策により、長期に低迷する生産性の向上を実現することである。
具体的には、情報通信技術(ICT)市場を拡充することで、ICT投資による資本蓄積及びICT分野における技術革新によるTFPの上昇により、経済成長を高めることに繋がる。
日本のICT分野の問題点は、ICT産業とICT利用産業のTFP(2011年~2015年)を比較すると分りやすい。前者のTFPが全期間でプラスとなり、かつ比較的大きいのに対し、後者のそれは小さいかマイナスとなっていることである。
ICT利用産業におけるICTの導入及び利活用を促進することで、それら産業のTFPの伸びを誘発し、一国としての経済成長につなげることが必要である。
5G(第5世代移動通信システム)が実用化段階に入った中、米国のGAFA、中国のBATHに怯むことなく、新しい技術を用いて、画期的なビジネスを創出するためのICT産業とICT利用産業との共創関係の構築が重要となる。
それには、1990年代のICT革命の分析でも指摘されているように、研究開発費総額及びソフトウェア投資の拡大、ICTに対応した人材の育成や企業組織の改編などの無形資産投資の拡充に官民を挙げて取り組むことが重要である。