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2020.06.16 (火) 印刷する

理解できぬイージス・アショア計画の停止 太田文雄(元防衛庁情報本部長)

 15日、河野太郎防衛大臣は山口県と秋田県で進めていた地上配備型迎撃システム「イージス・アショア」計画を停止すると表明した。理由はミサイル発射後のブースターを確実に演習場内に落下させることができないからだと言う。ブースターとは、発射する迎撃ミサイルを加速するための第一弾ロケットだ。長さにして数メートルで燃焼後の空タンクは、海上か演習場内に落下しなくても人命に影響を及ぼすことは万に一つの確率であろう。これに対し、核弾頭が搭載された弾道ミサイルが日本国内に落下した場合には、数十万、数百万の国民の命が失われることになるのだ。

 ●国民の命守るのはどちらか
 「最小限の犠牲は払っても重要なことは守り抜く」。この気持ちが河野防衛大臣にあるのか疑問を感ぜざるを得ない。秋田県での配備反対理由も、核弾頭搭載の弾道ミサイルから国民の生命と財産を守るというイージス・アショア配備の理由に比べれば実に瑣末としか思えない理由であった。配備候補地である山口県のむつみ演習場はやや内陸地にあるが、秋田県の新屋演習場は海岸に面しており、ブースターはほとんどの場合、海に落下する。
 河野防衛大臣は「当面、北朝鮮の弾道ミサイルに対してはイージス艦で対応する」と記者会見で述べた。現在イージス艦は7隻であり、来年に8隻体制となるが、イージス艦には弾道ミサイル防衛以外に東シナ海での警戒監視等の任務もある。また一般的には、修理、訓練、展開に必要な往返日数等から配備艦の3倍の隻数が必要になるのが常識である。したがってイージス艦が8隻体制になったとしても、常時配備が可能な艦は2隻がギリギリと言える。
 防空艦である「あまつかぜ」の勤務を皮切りに「たちかぜ」ミサイル士、また「あさかぜ」砲雷長、さらには防空艦を集めた第64護衛隊の司令を務めた筆者にとって、イージス・アショア計画の停止により現存イージス艦の遣り繰りに、どれだけ負荷がかかるかは容易に予測できる。

 ●高笑いする北や中露の関係者
 折しも15日、ストックホルム国際平和研究所は北朝鮮の核弾頭保有数(推定)を昨年の20~30個から30~40個に増やした。また、今回のイージス・アショア配備停止決定は中国やロシアに対しても抑止力の大幅な低下を意味する。
 15日夜のBSフジの番組で磐村和哉元共同通信平壌支局長は「イージス・アショアは対弾道ミサイル用なので今北朝鮮が開発している巡航ミサイルには対応できず時代遅れだ」と述べたが、軍事の素人が適当な事をテレビで述べて世論を惑わせている。将来的には、イージス・アショアで使用しているMk41ランチャーは、北朝鮮のみならず、現在中露が開発している巡航ミサイルを迎撃できるSM-6も発射できるようになる。さらには陸上発射型の長距離巡航ミサイルであるトマホークをも発射できる。中露ともイージス・アショアの配備に大反対してきた理由もここにある。今回の河野防衛大臣の決定に高笑いしているのは北朝鮮のみならず中露の軍関係者であろう。