新しい宮内庁参与の一人に兵庫県立大の五百旗頭真理事長が6月18日付で起用された。果たして五百旗頭氏は天皇陛下の相談役にふさわしい人物なのか、宮内庁による人選を疑問視する声が相次いでいる。
宮内庁参与は昭和39年から始まり、初代の吉田茂元首相と小泉信三元慶應義塾塾長をはじめ、政官財界や宮内庁長官経験者、学者らに委嘱されてきた。菅義偉官房長官は19日の記者会見で「皇室の重要事項の相談役であり、経験・人格・識見ともにふさわしい者として、天皇陛下のお許しを得て宮内庁においてお願いしている」と説明した。
産経新聞の名物コラム「産経抄」は20日付で、平成12~13年頃、島田洋一福井県立大教授が五百旗頭氏から「拉致なんて取り上げるのは日本外交として恥ずかしいよ。あんな小さい問題をね」と言われたことを紹介している。結婚披露宴前の控室での私的な会話とはいえ、島田氏が拉致被害者救出活動に関わっているのを知りながらの発言である。
●「日本も共和制に」発言の真意は
これだけでも看過できないが、さらに驚くべき話を聞いた。元日本政府当局者は宮内庁参与起用を聞いて、五百旗頭氏のあるつぶやき思い出した。平成23年12月、モスクワで開かれた「日露歴史対話」の際、駐露日本大使公邸で開かれた懇談会の席上のことだ。防衛大学校校長だった五百旗頭氏は「日本も共和制にしましょうか」とつぶやいたというのだ。
同当局者は前後の会話の文脈は覚えていないものの、「この言葉だけは強烈に印象に残っている」と話す。「日露歴史対話」は北方領土問題の背景にある日本とロシアの歴史観の違いを議論するため、両国の歴史学者約10人が参加し、五百旗頭氏は日本側座長を務めた。
五百旗頭氏が「共和制」の意味を知らないはずがない。氏は著書『米国の日本占領政策』(中央公論社)の中で、米国政府内の対日政治方針として「介入変革論」があったことを記している。この論者は「米国的共和制」を軸とする民主主義を「普遍的な価値」と考え、その日本への適用を求め、「旧体制のシンボルたる天皇制の廃止」を強く求める立場をとった。「米国的共和制」は直接選出された国家元首によって統治される政治形態を指すのだ。
●中国の対日観持ち上げに違和感
私的な会話のなかでの発言であり、記録も残っていない。五百旗頭氏が本心で言ったとは思いたくないが、元当局者は「天皇そのものを否定する『共和制』に言及した人物がなぜ宮内庁参与になるのだろうか」と語った。
五百旗頭氏は神戸大学教授だった平成16年には、「中央公論」5月号に「反中“原理主義”は有害無益である」と題し、「中国が若年層のナショナリズムの暴発とは別に、イデオロギーと対日観の呪縛を解き、その国家理性は等身大の日本を確認しようとしている。日本も反中原理主義的先入観の衣を捨てるときが来ていることに気づくだろうか」という書き出しで始まる論文を発表している。中国側の「努力」を理解しない日本にこそ問題があるという認識だろう。いまも同じ認識なのだろうか。
産経抄は「五百旗頭氏が外交・安全保障の碩学であるのは事実だろう。だとしても、宮内庁が天皇陛下の相談役に選んだ意図がわからない」と結んだ。同感である。