あえて取り上げるのも馬鹿々々しい話の一つが、「尖閣諸島は中国のもの」という荒唐無稽な主張だろう。最近、中国は特に武装公船を尖閣周辺に常駐させ、我が国漁船が操業すればちょっかいを出し、周辺の海底地形に勝手な中国名を付けるなど、言葉だけではなく、様々な形で行動をエスカレートさせている。気付いた時には中国の軍人が住み着いていたなんてことは、南シナ海で現実に起こっている。
他方、わが国で尖閣諸島に関心を持っている人がどれだけいるのか。内閣府政府広報室による世論調査(2017年)が示すところ、尖閣諸島については約9割の人が「知っていた」と回答したが、そのうち約4割しか「日本が有効に支配しており、解決すべき領有権問題は存在しない」ことを知らなかった。連日連夜、海上保安庁や海上自衛隊の艦船、航空機が守っているから、有効に支配できているのだが、国民の理解がこの程度では、暗澹たる気持ちになる。
そこで本稿では、尖閣諸島がわが国固有の領土であることを、国際法上の解説を加えつつ再確認しておきたい。
中国主張のご都合主義
尖閣諸島は、沖縄本島から約410キロ、石垣島の北方約170キロに位置する群島である。最大の魚釣島をはじめ、北小島、南小島、久場島、大正島、沖ノ北岩、沖ノ南岩、飛瀬など5つの小島と3つの岩礁から成る。わが国は、1880年代から現地調査を行い、明治28(1895)年1月14日の閣議決定により正式に日本の領土に編入した。
これに対し中国は、わが国の領有化から76年間、なんら異議を唱えてこなかったにも関わらず、1971年に突如、歴史的に中国の領土だと主張し始めた。これは、1968年の国際的学術調査の結果、東シナ海の大陸棚に海底油田がありそうだとする報告(ECAFE報告)がなされたことに起因するようだ。
たしかに中国側にも、明清時代の冊封使録などの文献に「釣魚嶼」などの名称で記述があるようだが、当時、中国から琉球に赴く航路目標として、その存在が知られていたことを示すに過ぎない。積極的に中国領であったことを示すものではない。
加えて、南シナ海における海洋法上の仲裁裁判で中国は、いわゆる「九段線」内の島嶼は歴史的に中国のものだと主張したが、完膚なきまで敗訴した。一方的で主観に満ちた歴史的理由を、領有の法的根拠とすることはできない。
国際法上の有効な取得
国家が領土を取得する国際法上の態様には、戦争などで強制的に自国に編入する「征服」、平和裏に取得される無主地の「先占」、相当長期にわたり支配する「時効」、合意によって一部を譲り受ける「割譲」、全部を譲り受ける「併合」、自然現象で領域が拡大する「添付」がある。
そのうち、尖閣諸島に対してわが国は「先占」の要件、すなわち無主地であることの確認及び領有の明確な意思表示、並びに実効的な占有を為し、その結果、国際法上有効に取得したもので、それは現在も不変である。中国の古文書にあるような、単に航路目標として知っていたというだけでは「先占」の要件は満たさない。
他方、中国は、日清戦争の結果として下関条約を結び、尖閣は台湾の付属島嶼として日本に「割譲」したものだから、台湾とともに中国に返還されるべきだとも主張する。
しかし、日清戦争が終了したのは1895年4月で、その年1月には戦争とは無関係に日本は領有手続きを終えている。下関条約でも台湾の付属島嶼に尖閣を含める議論はなく、中国主張は的外れと言うほかない。
国民理解深める努力を
第2次大戦後の一時期、米国の施政下におかれた沖縄には同諸島が含まれ、米国の施政権が及んでいた。それが1972年の琉球諸島返還により日本に正式に復帰した。国際法上も、同諸島が我が国領土であることに疑念を挟む余地はない。
付随的な話だが、尖閣諸島には、米海軍が利用する2つの射爆撃場がある。久場島の黄尾嶼射爆撃場と大正島の赤尾嶼射爆撃場である。戦後、米軍が使用してきたところ、1972年5月15日、日米地位協定2条1項(a)の規定に従って日米合同委員会で合意したものだが、射爆撃場としての使用を許可したのは日本政府である。1978年以降、使用実績なしということだが、いまだ当該合意は有効だ。
つまり、1971年に中国が自国領と主張してからも8年間、米国の射爆撃目標として使用されていたわけで、中国が真剣に自国領と主張していたのか大いに疑問である。
以上のように、尖閣は中国のものとする議論は、白を黒だと言うに等しい。そもそも領有権問題など存在しないとする日本政府の姿勢に誤りはないが、中国の勝手なふるまいを放置しておけば、南シナ海の二の舞になる恐れがある。
海保、海自の兵力運用にも限界がある。限界点を超える前に兵力を増強することは勿論だが、もっと国民の理解を深め、国際社会へアピールする努力が必要ではないか。
中国の武装公船が尖閣周辺で遊弋していることが普通の状態だと思われることほど恐ろしいことはない。それが東京湾であれば、異常なことだと誰でもすぐに気付くはずだ。