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2020.07.21 (火) 印刷する

公共投資が牽引する中国のプラス成長 大岩雄次郎(国基研企画委員兼研究員)

 中国の国内総生産(GDP)は、新型コロナウイルスの影響で1~3月期は前年同期比6.8%減と統計開始以来、初のマイナス成長に陥ったが、4~6月期は物価変動を除いた実質で同比3.2%増と市場予想を上回る回復を見せた。なお、年初来の1~6月期で見ると、前年同期より1.6%減で、依然としてマイナス圏で推移している。

足下の急速な回復は、まずは、一定の感染抑制による生産活動が再開できたことによるが、その他の回復要因は、外需と固定資産投資の持ち直しが中心で、リーマン・ショック時のような世界経済の牽引役を期待できるどころか、現在の回復の持続力には不透明感が残る。

民間投資は依然振るわず

生産再開により、製造業を中心とする第2次産業で生産が大きく拡大しており、工業生産は4~6月期の前年同期比4.4%増(1~3月期同8.4%減)と改善した。しかし、1~6月期の前年同期比では、減少幅は縮小したが、依然1.3%減にとどまった。1~3月期は工場の操業停止など全国で生産停滞したが、4月以降プラスに転じている。コロナ禍前に注文を受けていた製品の生産再開を含め、工場の稼働率が上がっている。

一方、サービス業を中心とする第3次産業では、生産拡大の動きはみられるものの、昨年10~12月期の水準を下回っており、依然として新型コロナウイルスの影響を克服出来ていない。

公共投資や企業の設備投資の動きを反映した「固定資産投資」は、1~6月期の前年同期比3.1%減(1~3月期同16.1%減)に留まった。そのうちインフラ投資は前倒しで執行しており、1~6月期の前年同期比2.7%減(1~3月期同19.7%減)であるが、民間投資の1~6月期の前年同期比は7.3%減(1~3月期同18.8%減)と依然振るわない。

また、中国人民銀行は、新型コロナウイルス対策として金融緩和を続けているが、2020年上半期の新規銀行融資は12兆900億元(1兆7300億ドル)で、過去最高を更新した。その一部が不動産市場に流れ込み、1~6月期の投資額は前年同期比で2%増となり、不動産市場の回復は鮮明になっている。

4~6月期の輸出額も前年同期比0.1%増とわずかながら増勢を示し、6月の輸出額は前年同月比0.5%増と2カ月ぶりに前年を上回ったが、1~6月期の前年同期比では、依然3.0%減である。東南アジア諸国連合(ASEAN)やアジア新興国及び米国向けの輸出が、比較的堅調な動きを維持している。6月の輸入額も前年比2.7%増と4カ月ぶりに前年を上回る伸びに転じたが、1~6月期の前年同期比では、依然3.3%減である。世界でコロナ感染が拡大するなかでは、輸出の大幅な回復は短期的には難しいだろう。

このように、足下の生産活動の回復は、主要国での経済活動再開を受けた世界経済の回復期待の動きに加え、中国国内でのインフラ関連など公共投資や不動産投資の拡大などに依存しており、公的部門と外需の動向に左右される状況にある。

雇用・所得不安で需要低迷

一方、実質消費支出は、1~6月期の前年同期比9%減と振るわない。小売売上高も、4~6月期の前年同期比3.9%減(1~3月期同19.0%減)で、6月の小売売上高も依然前年同月比1.8%減と前年を下回る伸びに留まった。昨年は年間で8%増と、成長のけん引役を果たしていただけに、消費の回復の遅れが際立つ。

消費の弱さの背景にあるのが、失業や所得減に対する不安である。ネット通販など電子商取引の活発化が押し上げ要因となるも、雇用環境の悪化や家計のデフレマインドが消費の足かせとなっている。

6月の都市部失業率(農民工を除く)は5.7%で、直近でピークだった2月(6.2%)からは低下傾向にあるが、流行前の昨年12月(5.2%)を依然上回っている。今年上半期の実質可処分所得は前年同期比1.3%減少した。今夏は874万人という史上最大規模の大卒者が労働市場に参入する予定であるが、これらの受け皿を充分に確保し得るかは心許ない。

5月22日に開幕し、28日に閉幕した全国人民代表大会では、2018年半ば頃に強調され始めた「六穏」(雇用、金融、貿易、外資、投資、予期の安定化)に加えて、2020年4月17 日の中央政治局会議で決まった「六保」(雇用、民生、市場主体、食料・エネルギーの安全、産業チェーン・ サプライチェーンの安定、基層(末端)組織運営の維持)を重視する方針が示され、雇用を最重視する姿勢が強調された。しかし、雇用吸収力の大きいサービス業の回復の遅れが響いていて雇用拡大は進んでいない。供給に対して需要の改善には、依然、多くの問題が残っている。

簡単ではないV字回復

足下ではプラス成長に転じた中国だが、先行きは予断を許さない。習近平体制下で、足下の投資の動きは公的部門が中心となる『国進民退』の色合いが強まっている。新型コロナウイルス対策を名目に、本来、資金需要が逼迫している民間企業に回すべきものが国有企業に集中し、結果、効率性の悪い国有企業の債務膨張やバブル再燃のリスクを高めている。

中長期の不安要素は、各国で高まる“脱中国”の行方である。コロナ禍で、中国に過度に依存する生産体制への見直しが起きている。米中の経済冷戦が急速に激化していることに加え、香港や南・東シナ海における中国の強権的姿勢への反発から、欧州連合(EU)との友好関係も悪化しつつある。コロナ禍からいち早く脱出したと喧伝してきた中国だが、V字回復は簡単ではない。わが国も、短期的な経済の上振れに惑わされず、着眼大局の判断が求められる。