公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2020.09.14 (月) 印刷する

「専守防衛」から「戦略守勢」へ 元防衛庁情報本部長 太田文雄

 安倍晋三首相は9月11日、イージス・アショアの配備断念を受けた安全保障政策に関する談話を発表した。内容は、従来までの敵ミサイル迎撃のみに手段を限定した防衛手段に疑問を呈し、敵基地攻撃能力を念頭に検討した「ミサイル阻止に関する安保政策の新たな方針」を基に年末までにあるべき方策を示すとしている。

談話では専守防衛の考え方は変更しないとしているが、いずれは専守防衛といった一般大衆向けの造語ではなく、本来、軍事用語として適切な「戦略守勢」という言葉に戻っていかないと本物にならない。

敵基地攻撃能力の保有は当然

元来、専守防衛などは国是でも何でもない。中曽根康弘氏が防衛庁長官の時に作った素人受けの良い造語であり、軍事的にはそのような言葉はない。防衛白書ではExclusive Defense-Oriented Policyなどと英訳しているが、この英訳を素直に読めば一切の攻撃手段を放棄する意味に受け取られ、国際的な誤解を生じている。

最近は、有識者の中にも「防衛的防衛」などと訳のわからない造語を生み出している人もいる。

昔から軍事用語としては「戦略守勢」と言う立派な言葉が存在する。その意味するところは「戦略的に攻勢に出ることはしないが、戦略的な防衛目的を達成する為に戦術的には攻撃手段を保有することも有り得る」であり、本来の軍事用語に戻すべきだ。そうすれば戦略的には守勢であるミサイル阻止という目的の為、戦術的な攻撃手段である敵基地攻撃能力を保有することが当たり前だという結論になる。

キラー衛星対策もコンステレーション計画にも参加を

米国から参加を打診されている「コンステレーション計画」も検討すべきだ。数多くの即応可能な小型合成開口レーダー(SAR)衛星を打ち上げて、常続的に敵ミサイルの発射動向を追尾する計画であるが、本来、グローバルな構想であるため、同盟国の協力が欠かせない。この計画に日本も参加して、21世紀の新たな日米協力のメニューとすべきである。

当然のことながら、中国などは既に他国の衛星を攻撃するキラー衛星をすでに開発し保有している。ところが、こうしたキラー衛星から自国の衛星を守ることですら専守防衛という考え方は機能しない。キラー衛星をレーザー等の手段で妨害する能力も必要となるからである。

一時的に、敵基地攻撃能力の保持という手段で凌いでも、根元的に「専守防衛」という概念を修正しない限り、国民の生命・財産を守ることはできないのだ。