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2020.09.14 (月) 印刷する

日本より厳しい豪州の中国脅威認識 石川弘修(国家基本問題研究所理事・企画委員)

 オーストラリアと中国の関係が一段と悪化している。中国国家安全部の追及を受け、出国禁止を求められていた豪メディアの特派員2人が9月8日、中国から急きょ出国し拘束を免れた。1973年、豪中関係が正常化され、オーストラリアの公共放送ABCが北京支局を開設して以来、正規の豪特派員がいなくなるという異例の事態となった。

2人は、ABC北京特派員のビル・バートルズ氏と豪紙オーストラリアン・フィナンシャル・レビューの上海特派員、マイケル・スミス氏で、8月から拘束中の中国出身の豪州人ジャーナリスト、チェン・レイ氏の参考人として中国の治安当局から事情聴取を求められたが、拘束される懸念から北京の大使館と上海の領事館に一時避難していた。

「遺憾」表明に終始する日本

豪中関係は一昨年、豪政府が通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)の5G 事業参入を禁止し、さらに今年初め、アメリカについで豪州が新型コロナウイルス発生源に関する独立した国際的な調査を要求したため、中国が強く反発。中国は豪州からの大麦など一次産品輸入規制などを強化しており、豪紙オーストラリアンは、中国の人質外交ではないかと批判している。

一方、米紙ウォール・ストリート・ジャーナルは、中国にとってオーストラリアは「威嚇するのに格好の国であり、今後も見せしめが続くのでは」と推測する。

日本のメディアについては、香港の民主化運動をめぐって、日経新聞の香港支局が香港警察の訪問を受けているが、オーストラリアに対するように人質外交のような行為にまでは至っていない。逆に言えば、中国政府を刺激するような突っ込んだ報道がない、ということである。

それ以上に、日本政府が、香港国家安全維持法が成立しても、中国の公船が尖閣周辺でほぼ連日のように領海や接続水域への侵入を繰り返しているにもかかわらず、ただ「遺憾」のコメントを発するだけの対応で済ませているからだといえよう。

安保と防衛の「いいとこ取り」で済まず

すでに米政府は、ファーウェイに提供する部品に米国の技術が使われていれば、どの国であろうと貿易規制対象とすると発表しており、今後、米中対立は一段と厳しくなろう。

中国の脅威に対抗する日米豪印安全保障対話「クワッド」を推進してきた日本としては新首相が対豪協調の促進に如何に対処するのか。

かつて豪首相補佐官を務めたオーストラリア国立大学名誉教授のヒュー・ホワイト氏は、米国との同盟関係を維持しながら、豪州は他方で大国として台頭してきた中国との経済関係を享受する「いいとこ取り」を改める時が来ている―と疑問を投げかけている。

ホワイト氏は昨年上梓した「How to Defend Australia (いかにオーストラリアを防衛するか)」の中で、アメリカの存在感が後退しつつある中で、アジア各国は戦略的転換を迫られていると指摘し、「新しいアジアでは核兵器を諦めるという戦略的コストは、これまでよりずっと高くつくかもしれない」と述べて、核兵器保有論争に火をつけた。

南半球の豪州では、北半球以上に中国の専制的な膨張主義が、日本より脅威としてずっと厳しく受け止められている。