公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2020.11.02 (月) 印刷する

核兵器禁止条約の発効に同調するな 太田文雄(元防衛庁情報本部長)

 核兵器禁止条約を批准した国・地域が10月24日時点で、50に達し、来年1月に発効することになった。これに合わせて日本も批准すべきだとの議論があり、メディアもそうした主張を大きく報じている。しかし、肝心なことは、我が国の安全保障を脅かす中国、北朝鮮、ロシアといった核保有国が、まったくこうした動きに同調せず、いっさい核を手放そうとしないことである。

同様な動きは過去に2回あった。ひとつは1990年代後半に日本も批准した対人地雷全面禁止条約であり、もうひとつは2008年に署名したクラスター弾に関する条約である。いずれも中朝露は加わらず、結果的に日本の安全保障を脅かす結果となった。

日本外務省に怒った米国防総省

対人地雷全面禁止条約については筆者が在米日本大使館の防衛班長であった時、防衛班に相談のないまま政務班が「米政府は日本が批准しても問題視しない」とする公電を出したため、日本政府が同条約の批准に傾いた。

ところが米国防総省は「同盟国として日本防衛のために対人地雷は必要」とする立場に立っており、その後の外務・防衛実務者会議で米側は繰り返し日本外務省の「良い子顔」したがるスタンドプレーを非難した。

当時は冷戦終結後間もなく、ロシアの日本侵攻の可能性は低下していた時であったが、中国人民解放軍が尖閣諸島を占拠する可能性が高まっている今日、侵略の抑止につながる対人地雷を放棄したことは、全く中国を利するだけになっている。対人地雷全面禁止条約に署名すらしていない中国は、尖閣占領後、反撃阻止のために地雷を敷設するかもしれない。そうなれば日米は尖閣奪回に多大な犠牲を強いられる事になろう。

クラスター弾も侵略阻止に有効

大型の弾体の中に多数の子弾を搭載したクラスター弾も、侵略阻止のための有効な手段である。2009年、度重なる防衛省の懸念を無視する形で外務省が禁止条約の批准を押し切った。このため防衛省としてはクラスター弾の代替武器として高密度EFP(自己鍛造弾)等の開発をしてきたが、未だに実用化に至っていない。しかもEFPは戦車に対して無力であるばかりか、歩兵に対してもクラスター弾ほどの効果は望めず、完全に全てを代替えする事はできない。

対人地雷全面禁止条約は別名オタワ・プロセスと呼称され、クラスター弾に関する条約はオスロ・プロセスと呼ばれる。それぞれカナダとノルウェーがとりまとめに動いたからだが、カナダにせよノルウェーにせよ地政学的に我が国とは全く異なる安全保障環境にある。

一見平和に貢献するかのような人道的国際条約も、対象国である中朝露が一切加入しなければ我が国を危険に晒すばかりだ。日本が人道の名のもとに、こうした条約を受け入れることは、同盟国であり核の傘を提供している米国の不信を買うだけであり、ひいては日米同盟に亀裂を入れかねない。