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2020.11.24 (火) 印刷する

トランプ大統領の拉致問題への取り組みに感謝する 西岡力(モラロジー研究所教授・国基研企画委員)

 米国トランプ大統領に対して日本では「差別主義者」「人権無視」などと批判する一部専門家がいる。しかし、日本の抱える重大な人権問題である北朝鮮による日本人拉致問題について、歴代の米国大統領の中でトランプ氏ほど、親身になって家族の苦しみに耳を傾け、北朝鮮に対して直接、解決を迫った人はいなかった。その意味でトランプ大統領は、日本人にとって人権問題に誠実に取り組んでくれた恩人といえる。なぜ、そのことがもっと強調されないのか不思議でならない。

ハノイでは2度も解決迫る

トランプ大統領は2017年9月、国連総会で、核実験とミサイル発射で軍事挑発を続ける北朝鮮を激しく批判する演説を行った。その中で横田めぐみさん拉致について「日本の13歳のかわいらしい少女が海岸から拉致され、北朝鮮工作員に語学を教えることを強いられた」と言及して、拉致問題に取り組む私たちを力づけてくれた。

また、その2カ月後の2017年11月に訪日した際には、拉致被害者家族会と面会して被害者救出への決意を語った。

北朝鮮はトランプ大統領の戦争も辞さないという強い軍事圧力と外貨の枯渇を狙った厳しい国連制裁に負けて対話に舵を切った。2018年6月には初の米朝首脳会談がシンガポールで持たれたが、そこでトランプ大統領は北朝鮮の独裁者、金正恩に直接、日本人拉致被害者を返せと要求した。金正恩はそのとき、話題を変えてごまかしたという。

2019年2月にトランプ大統領はハノイで持たれた2回目の金正恩との会談で、なんと2度も日本人拉致問題の解決を迫った。最初は会談冒頭の1対1の会談だったが、そこでも金正恩は話題をそらして回答をしなかった。そこで続いて行われた少人数での夕食会でトランプ大統領は再度、拉致問題の解決を迫った。そのとき金正恩は「意味のある回答」(米政府高官)をしたという。その回答の具体的中身は日本政府に詳細に伝えられた。

日米の新政権は熱意引き継げ

ハノイ会談で金正恩は老朽化している寧辺の核施設だけの廃棄を見返りに、ほぼすべての経済制裁の解除を求めたが、トランプ大統領は寧辺以外の核施設についても廃棄を求め、それを金正恩が拒否するや席を立って会談を決裂させた。

もしそのとき、金正恩が寧辺以外の核施設の廃棄にまで踏み込んでいれば、拉致問題を主要議題とする日朝首脳会談がすぐにも開かれたはずだ。トランプ大統領は核問題と拉致問題の解決をセットで金正恩に強く迫ったからだ。

ハノイ会談後の昨年5月、令和時代の最初の国賓として来日したトランプ大統領は2度目となる家族会との面会で、「拉致問題は私の頭の中に常にある。安倍晋三首相とともに解決に向かって努力したい」と語った。

その後もトランプ大統領の拉致問題への熱意は冷めなかった。翌6月には自筆で拉致被害者、有本恵子さんのお父さんに「あなたはきっと勝利する」と書いた手紙を送った。今年6月に横田めぐみさんの父である横田滋さんが逝去すると、やはり自筆のお悔やみの手紙を送ってきた。そこでトランプ大統領は「めぐみさんを必ずご自宅に連れて帰るという、この重要な任務を続けます」「早紀江さんと滋さんの弛まない活動によって、北朝鮮による拉致問題は日本と米国にとって優先課題であり続けています」と書いて、横田早紀江さんをはじめとする関係者みなを感動させた。

残念ながら新型コロナウイルス蔓延下での異常な大統領選挙の結果、トランプ大統領は再選できなかったようだ。日本でもトランプ大統領に拉致問題の深刻さをくり返し説いた安倍首相が退陣し、菅義偉新政権が発足した。菅政権も安倍政権を継承して拉致問題解決を政権の最重要課題に掲げている。ぜひ米国の新政権に対して、トランプ大統領が示した拉致問題解決への熱意を引き継がせるための働きかけを全力で行ってほしい。