南シナ海と東シナ海の3つのフラッシュ・ポイントで緊張が高まっている。7月の中国共産党創設100周年、来年の第20回中国共産党大会を前に、バイデン米政権が弱みを見せれば、習近平国家主席の中国は伝統的な拡張主義の誘惑に抗しきれなくなるだろう。その一つが尖閣諸島の緊張の高まりであり、とかく戦略観に乏しい菅義偉政権には、力のバランスを回復させる政策行動を早急に求めたい。
危機強まる尖閣情勢
近年の中国海空軍の動静からみて、インド太平洋のフラッシュ・ポイントは、主に3つに絞られるだろう。
第1は、台湾の海兵隊が駐留しているプラタス諸島(東沙諸島)である。台湾が領有しているこの海域は、中国が本島攻撃の前哨地として位置づけられるからだ。中国軍のプラタス攻撃は、アメリカ軍が実際に介入してくるかどうかの試金石になる。プラタス攻略が容易に完遂できれば、中国にとっては台湾本島への攻撃に道を開くことになる。
第2は、南シナ海支配のカギを握るスカボロー礁(南沙諸島)にある。過去に、フィリピン艦船を追い出して実効支配してはいるが、アメリカ海軍がにらみを効かせているため埋め立てのための測量すらできていない。2016年に実施しようとしてアメリカ軍のA10 攻撃機6機の出撃で中止に追い込まれたままだ。
そして第3が、わが尖閣諸島である。中国の海警局は、海警法の改正によって敵の公船を攻撃できる根拠を手にした。日本の海上保安庁の巡視船は、国連海洋条約によって中国の公船に対する攻撃を想定していないが、中国の国内法は国際規範を簡単に踏みにじる。
菅政権は今後、「第2の海軍」と化した中国の海警に対する日本の装備を固めなければならない。尖閣海域は明らかに警察力対警察力というバランスが崩れ、第2海軍力対警察力という不均衡へと危機のステージが上がった。
影響力誇示したい習近平
習近平主席は、2021年7月1日に予定される「中国共産党創設100周年」の記念式典を控え、武漢ウイルスを制圧して経済成長に転じた最初の経済大国であると喧伝し、共産党の統制を強化し、国際社会への影響力を誇示するはずだ。
バイデン大統領による「中国とは熾烈な競争になる」との通告に対して、習近平主席にとって中国内で弱腰とみられることは、政治的ダメージにつながる。対外的にも、中国の世界的な威信に対するプロパガンダの効果を弱めてしまうだろう。
習近平主席はすでに1月の共産党中央学校における党幹部への演説で、「世界はこの1世紀の間に目に見えない大きな変化を遂げている」と持論を展開した。党創設100年にあたり「時間と状況」が中国に有利になったとして「中国の時代」の到来を宣言している。この勢いで7月を迎え、その先にある2022年後半に5年に1度開催される「第20回中国共産党大会」で政治ライバルを粉砕して、党総書記の任期切れを封印しなければならない。
そのためには、アメリカ民主主義の機能不全を蔑み、中国が解き放った病原体を適切に制圧できない現実を笑う立場にいたいと思うはずだ。習近平政権は、バイデン政権がアジアとヨーロッパの同盟とパートナー国との関係を再活性化する前にクサビを打ち込み、対中包囲網をつくれない環境に持ち込む必要があった。
中国は14カ国とのRCEP(地域包括的経済連携)に署名することに成功し、バイデン政権発足前の昨年12月末ぎりぎりで、自ら人権に関する譲歩を申し出てまで、EUとの投資協定を大筋合意に持ち込んでいる。
海保と海自の相互性急げ
菅義偉政権は好戦的な中国に対し、侮られることのない明白な政策行動を示して抑止力を段階的に上げなければならない。直ちに行うべきは、海上保安庁の巡視船と海上自衛隊の艦船、および通信などについての互換性を高めて防御態勢を整えることだ。独自の防衛シミュレーションを実施するのはもちろん、防衛費の1%枠を取り払う。さらに、日米豪印4カ国安保体制(クアッド)を拡充強化して、インド太平洋における「中国の脅威」認識を国際化すべきだろう。
すでに、イギリスは最新鋭空母クイーン・エリザベスにアメリカ海兵隊の艦載機F35Bを乗せ、今年中にアジア海域に派遣する。さらに、ドイツ海軍やフランス海軍と連携して、NATO(北大西洋条約機構)軍として共同訓練しながらインド洋、南シナ海、東シナ海を北上してくる。日本は海上自衛隊との共同訓練を加速させ、多国籍海軍の寄港を常態化させる戦略も視野に入れるべきであろう。