公益財団法人 国家基本問題研究所
https://jinf.jp/

国基研ろんだん

2021.03.08 (月) 印刷する

米新政権下の国家安保戦略への不安 太田文雄(元防衛庁情報本部長)

 バイデン米大統領が3月3日、包括的な国家戦略「国家安全保障戦略」策定に向けた暫定指針を発表した。日本メディアは、トランプ政権に比して同盟や多国間機構を重視する姿勢を示しているとして好意的に受け止めているようであるが、筆者の評価は全く違う。

タイトルに暫定的(Interim)とあるためか、目次は「はじめに」と「まとめ」を除けば「グローバルな安全保障景観」と「我々の安全保障優先順位」の2項目のみで、全体でも約20ページに過ぎない。トランプ政権が2017年に公表した国家安全保障戦略が4部構成に地域毎の記述が加わり、全体として約70ページであったのに比し質量ともに見劣りしているように見える。

「宇宙」は後退、「CVID」消える

ブッシュ(ジュニア)政権時代には、国際テロといった非国家主体に焦点が当てられていたが、オバマ政権後期には中国、ロシアといった国家脅威に回帰し、トランプ前政権では「力を通じた平和」として具体的な戦力項目ごとに論じていた。これに対しバイデン政権の安全保障戦略は、再び非国家主体に戻った感が否めない。

前書きを含む前半部分では、環境問題や性的マイノリティー(LGBTQI)のような記述が多く、後半になってやっと新戦略兵器削減条約やサイバー安全保障に入るが、トランプ政権で項目が立てられていた「宇宙」に関しては特記されていない。

トランプ政権下の安全保障戦略で記述されていた朝鮮半島の「完全かつ検証可能で不可逆的な非核化」(CVID=Complete, Verifiable and Irreversible Denuclearization)という表現がなくなっている。これは北朝鮮を核保有国家として認めたという誤ったメッセージを送ることになり、朝鮮半島に隣接する我が国の安全保障上重大な問題と言わざるを得ない。

ただトランプ政権下の戦略では、直面する脅威を中国、ロシアの並列で扱っていたが、今回は中国に焦点を絞っていることは評価できる。

国防費削減と一体の同盟強化

バイデン政権では、社会保障等の国内問題に連邦予算を充当させる圧力が高まっている。議会上院の予算委員会議長に、社会主義者であるバーニー・サンダース氏が就任したことからもそれが窺える。この結果トランプ前政権が目指した355隻艦隊や、せっかく設立した宇宙軍にも十分な予算は充当されまい。

政権発足後、早速、国務長官、国防長官を日本に派遣して日米の外務・防衛大臣会合(いわゆる2プラス2)を行う点だけを見ていると、バイデン政権は同盟強化に積極的だという思いを強くするが、なんといっても強い軍事力がなければ、「引き下がらない対中抑止力」を目指す上での不安は払しょくできない。

我が国も「同盟強化」の言葉に惑わされず、実態を見て自らも国防力の強化に務める必要がある。