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2021.03.15 (月) 印刷する

小池新党が取り沙汰される背景 有元隆志(産経新聞正論調査室長兼月刊「正論」発行人)

 東京都の小池百合子知事が新党「希望の党」を立ち上げたのは4年前のことだった。一時は旋風を巻き起こす勢いだったが、小池氏の「排除の論理」発言もあり失速し、翌年には解散した。4年の月日を経て、再び小池氏をトップにした都市新党結成の可能性が取り沙汰されている。

維新、都民ファの連携情報も

小池氏に近い関係者によると、「新党の代表は小池氏が就き、日本維新の会をはじめ改革マインドを持つ野党議員らが参加することを想定している」という。同関係者によると、「排除の論理が批判されたが、安全保障や憲法観で同じ方向を向いていないと同志とは言えない。立憲民主党からは合流することはないので、今回のほうが新党を結成して躍進する可能性は高い」と語る。

4年前も小池氏は日本維新の会との連携を模索した。この関係者は日本維新の会に期待する理由として、「硬直化した中央集権システムを改めることをスローガンにするためには日本の都市の代表ともいえる東京と大阪が組むことは一番効果的だ」と強調する。加えて日本維新の会前代表で元大阪府知事、橋下徹氏が小池氏を評価していることも「追い風になる」としている。

橋下氏は2月15日放送のニッポン放送番組で、東京五輪・パラリンピック組織委員会の森喜朗前会長の辞任問題をめぐる小池氏の対応について「小池さんがすごいのは、僕だったら真正面から森さんに『辞めてください、もうあなた駄目です』とわんわん言って大バトルになってしまうんだけど、じーっと見て、ここっていうときに会議を欠席っていう、あの振舞いは政治家としては本当にピカイチ」と絶賛した。

すでに小池氏が特別顧問を務める地域政党「都民ファーストの会」と、大阪府の吉村洋文知事が代表の地域政党「大阪維新の会」の若手らが連携を図ろうとしているとの情報もある。

首相支持率の急落も影響か

新党結成に期待が集まるのは、自民党と野党第一党の立憲民主党への失望感が大きいことも要因として挙げられる。菅義偉首相の支持率は昨年秋の内閣発足当初は高かったが急降下した。下げ止まりはしているが、今年に入り1月の北九州市議選、2月の大分市議選でいずれも自民党は現職候補を複数落としている。

それぞれ地域の事情はあるにせよ、今年秋までにある衆院選の「前哨戦」として注目されただけに、自民党にとっては厳しい結果となった。新型コロナウイルス対応への不満に加え、与党議員が緊急事態宣言下にも関わらず深夜会合を繰り返し、議員辞職、あるいは離党を余儀なくされたことへの反発も強い。

対する立憲民主党も総務省問題などで政権を追及しているが、支持は広がっていない。立民は議席増に向けて野党の競合はできるだけ避け、共産党の固定票にも目を付けている。共産党も立民との選挙協力を通して、次期衆院選での政権交代を目指している。

もっとも立民は共産党が求める「野党連合政権」構想には否定的だ。立民最大の支持団体の連合も「(共産党と)政権を共にすることはありえない」(神津里季生会長)と反対しており、立民は板挟み状態だ。

こうした既成政党への不満から小池氏への期待が高まるのだろうが、先の関係者は「小池氏にとって維新に信頼できる人物がいない。4年前の失敗もあり簡単にはいかないだろう」と予想する。維新内でも松井一郎代表(大阪市長)が小池氏との連携には反対だとみられている。

平成31年2月に東京都と大阪府、大阪市が、東京五輪・パラリンピックと2025年の大阪・関西万博の成功に向け協力していくために立ち上げた「東京・大阪連携会議」はわずか2回しか開かれていない。新型コロナウイルス対策をめぐっても小池氏と吉村氏の会談が模索されたが、松井氏の反対で立ち消えとなったという。

「理念なき権力欲」との批判

連携派は橋下氏の後押しに期待するだろうが、その橋下氏は3月8日のTBS番組では「小池さんは民意の風に乗るのは、天才的な能力があると思うんですが、ちょっと責任逃れしているな、と思うんですよ」と述べた。「とことんステイホーム」など、小池氏の対応がパフォーマンス先行となっていることを指す。

東京都は2月下旬に新型コロナ感染の重症者向け病床の使用率を86%から32%へと大幅に減らした。分母となる確保病床数の報告数を都が国の基準に合わせたためだが、小池氏は重要データの変更に関する説明を自ら行うことは避けてきた。

いま小池氏に求められているのは、任期途中で都知事のいすを投げ出して国政に転じることではない。昨年の都知事選で多くの都民が小池氏に求めたのは、新型コロナ対策や豪雨対策など都民の命を守る施策を地道に進めることである。理念なき権力欲追求で一番迷惑を被るのは都民であることを小池氏は忘れてはなるまい。