公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2021.06.03 (木) 印刷する

増額でも気がかりな米国防予算 太田文雄(元防衛庁情報本部長)

 バイデン米大統領は5月28日、政権発足後初となる2022会計年度予算教書を議会に提出した。削減が懸念されていた国防総省予算は前年度比1.6%の増の7150億ドル(約79兆円)が計上された。中でも、中国をにらんだインド太平洋地域での米軍の抑止力強化のための「太平洋抑止構想」(PDI)向けに約51億ドルが要求されている。前年度の約22億ドルから倍以上の増額である。PDIは日本にとっても重要な意味を持っており、大いに評価したい。

だが、気がかりな点もある。筆者が感じている懸念二つを挙げてみたい。

実質的には削減ではないか

2001年の米同時多発テロ以降、国防予算とは別枠で盛られていた海外緊急作戦費(Oversea Contingency Operations-OCO-)が、今回は国防基本予算の中に入れられている。トランプ政権時代の2021会計年度でOCO費は690億ドルで、7050億ドルの国防総省予算要求にプラスされて盛られていた。単純にこのOCO費を差し引けば、バイデン政権での実質国防総省予算費は約8%の減額となる。

これに加え、今回の国防総省予算には新型コロナ対策費として5億ドル、また気候変動対策のために6.17億ドルがそれぞれ盛り込まれている。さらにインフレ率を考慮すれば、国防総省予算は実質的削減となる。

小型衛星群構想にも予算なし

1000基以上の小型衛星を打ち上げて敵弾道ミサイルの発射以後を追尾する衛星コンステレーション構想に関する予算が見当たらないことも気がかりだ。

同構想は複雑な軌道を描いて超音速で飛来する弾道ミサイルへの切り札として期待されてきたが、宇宙と宇宙基地システム用予算(206億ドル)に関連項目が見当たらない。ミサイル防衛局の予算も89億ドルと前年の91億ドルから削減されている。

衛星コンステレーション構想は、日本も令和3年度予算で1億7000万円の調査研究費を計上し、共同で開発する予定であったため、将来の弾道ミサイル防衛(BMD)計画にも懸念が残る。

米国と共同のBMDにおける切り札の実現が遠のくということになれば、ますます日本独自の打撃能力を構築する以外すべはない。米韓首脳会談で、韓国が保有するミサイルの射程制限800kmが撤廃されることになったが、これは韓国のミサイルの射程内に東京も入るということである。

中国の凄まじいばかりの軍事力増大と侵略的行動、周辺諸国のミサイル射程伸長に対抗するため、日本はこれまでのように防衛費をGDP比1%程度としたままで良いのか、相手のミサイル拠点をたたく打撃力を持たないままで良いのか、待ったなしの対応が求められている。