歴代最長の連続12年間、通算15年にわたるイスラエルのネタニヤフ政権がついに終焉を迎えようとしている。
イスラエルは、この2年間、4度の総選挙(定数120)を繰り返し、政局は混乱が続いていた。イスラエルでは第一党が単独で過半数を獲得できなかった場合、大統領は各党に意見を聞き、連立政権を運営できる可能性の高いリーダーに組閣を委任する。3月の総選挙結果からリブリン大統領は、比較第一党となった「リクード」のネタニヤフ氏に組閣を委ねたが、期限の5月4日までに実現できなかった。
替わって組閣を求められた第二党の中道「イェシュ・アティド」のラピド党首が連立交渉に成功したことで政権交代が実現する見通しとなった。国会で承認されれば、ネタニヤフ首相の退陣が確定する。
だが、8つの少数政党の寄り合い所帯となる次期政権は、「反ネタニヤフ」が唯一の共通項で、政策やイデオロギーは大きく異なる。正式発足したとしても綱渡りの政権運営を強いられることは必至だ。
複雑な社会構造が政治にも反映
イスラエルは1948年の建国以来、世界中に離散していたユダヤ人が集まり、彼らの出身地の文化や思想を反映した様々な政党が誕生した。そのため、現在のイスラエル国会は30議席を有する「リクード」を筆頭に、数議席に過ぎない少数世帯まで政党が乱立し、イスラエルという国家の多様性を投影した場ともなっている。
こうしたイスラエル社会をまとめてきたのは、ユダヤ教という宗教以上に、長く流浪の民としての苦難の歴史から来る危機意識と、徴兵制などを通して育まれる戦友のような仲間意識だ。
これまで、ネタニヤフ氏は、2014年のパレスチナ自治区のガザ侵攻など、国民の危機意識を煽ることで求心力を高めてきた。しかし、ネタニヤフ氏の強引な手法に反発を覚える者も増え、ネタニヤフ氏が汚職問題で起訴されたことも決定打となり、次第に政局はネタニヤフ派と反ネタニヤフ派に二分化した。
今回、合意した連立政権には、イスラエル政治史上初めてアラブ系政党「ラアム」(4議席)が参加する。首相(任期4年)には、反ネタニヤフ勢力結集で中心的役割を果たしたとされる極右政党「ヤミーナ」のベネット党首が最初の2年間就き、その後、第二党のラピド氏が残りの2年就任する予定だ。「ヤミーナ」はパレスチナ国家そのものに反対しており、「リクード」より右派色が強い。極右派とアラブ系政党が協力することからも、連立の最大の目的がネタニヤフ下ろしにあることは明らかだろう。
難しい舵取り迫られる次期政権
次期政権は、バイデン米政権の人権問題重視姿勢への配慮やアラブ系政党との協力の必要性から、ユダヤ人のパレスチナ入植など右派色の強い政策を打ち出すことは容易ではない。そのため、次期政権は経済問題など連立内で協力が得やすい政策を中心に進めていくことになるだろう。実際、連立協定ではアラブ系への経済面での配慮を約束している。
当面の焦点は国会承認だが、次期政権の合計議席は62と過半数をかろうじて上回る程度だ。ネタニヤフ氏は次期政権の誕生阻止に向けて、左派やアラブ系との協力を内心快く思っていない右派勢力へ早くも揺さぶりをかけ始めている。次期政権の信任投票の日程はネタニヤフ氏に近い「リクード」のレヴィン国会議長が決定権を持っている。レヴィン氏はネタニヤフ氏に配慮して投票日を遅らせる可能性もあり、予断は許さない状況だ。
仮に次期政権がスタートしても、ネタニヤフ氏が政界に留まり続ければ、再起をかけて今後も次期政権の切り崩しに出てくる可能性は大いにある。パレスチナ側との衝突が起これば、次期政権はこれまで以上に難しい舵取りを迫られる。ネタニヤフ氏はこうした隙を見逃さないだろう。
また、ネタニヤフ氏が政界を去った場合も、反ネタニヤフの名目が消えることで新たな仕切り直しが必要になる可能性は十分にある。イスラエル政局の混乱はまだまだ続きそうだ。