公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2021.06.22 (火) 印刷する

「父の日」は昔なかった 太田文雄(元防衛庁情報本部長)

 6月第三日曜日である20日は父の日であった。しかし我々が成人するまで父の日はなく、逆に母の日は米南北戦争を機にできていた。戦場では「お母さん」と叫んで戦死する兵士が殆どで、「お父さん」と叫んで死ぬ兵士は稀である。言葉を母国語と言って父国語と言わないのは何故か。我々は母によって生み成され、母によって人となる。子供に与える影響力は母親の方が圧倒的に大きいからである。

林檎と蜜柑比べる無意味

「ダボス会議」の名で知られる「世界経済フォーラム」(WEF)は毎年、各国のジェンダー不平等状況を分析した「世界ジェンダー・ギャップ報告書」を公表している。今年3月に公表された最新の順位によれば日本は120位で先進7カ国(G7)中、最低と報じられた。その評価基準は政治参加・経済・教育・健康の4項目で、日本は政治参加と経済の評価で低いためである。しかし果たして政治家になったり経済界で枢要な地位に就いたりすることが高い価値なのだろうか。

『武士道』を英文で著した新渡戸稲造は「男女の社会的地位比較は、金(Gold)と銀(Silver)の価値を比較するようなもの」として「多元的な基準で比較すべし」としている。しかし金に比べ銀の方が熱伝導率は高いが、競技で表彰されるメダルの色は金の方が銀よりも上である。新渡戸はApples (林檎)とOranges(蜜柑)のように元来比較する事自体が無意味である例えを言うべきではなかったか。

子育てで圧倒的な母の力

温かい家庭からは不幸な子、不良少年は生まれ難い。LGBT差別撤廃は世界の潮流というが、様々な事情で母の愛を受けなかった子から犯罪者が多く出ているという統計もある。

モーゼが伝えた聖典タルムードには「母の膝下にて学びし人は知慮最も深し」という言葉がある。自分が生んだ子を立派に育て上げて社会に送り出すことへの尊厳が込められていると筆者は思う。卑近な例だが、筆者には東京都剣道連盟副会長の兄がいて、兄弟共に中学から剣道を始めた理由は、母親が子供に武士道精神を学ばせたかったからである。

子供の教育は母親の影響力の方が圧倒的に強く、柔道をやっていた父親の影響力は限定的であった。男女の差は、法律的にはともかく生物的には厳然と存在する。