公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2021.06.29 (火) 印刷する

組織委は最後まで緊張感切らすな 佐野慎輔(尚美学園大学教授)

 東京オリンピックの開会式が7月23日に迫った。残念ながら現状は「人類が新型コロナウイルスを克服した証」とは言い難く、祝祭ムードもみられない。いまなお「中止」論も止まないなか、ここまで準備を整えてきた大会関係者の労を多としたい。

思えば、コロナ禍の拡大とともに組織委員会の関係者は身を縮める境遇を強いられてきた。コロナへの不安をぶつけるように批判が相次ぎ、今年2月、3月には当時の森喜朗組織委会長や式典総括担当者の舌禍による不信感が拍車をかけた。それでも職員たちは大会開催に向けて地道に仕事を続けてきた。いうまでもなく組織委とは大会を円滑に運営するための組織、前を向いて事を進めていくことがその役割である。

「みなさん優秀な方たちで、ほんとうに一生懸命仕事をこなしていらっしゃる」―森氏辞任後、橋本聖子会長体制下で就任したある理事の話だ。外からみていた思いと中に入って知った姿との落差に驚かされたという。

硬直した思考、統治力の欠如

そうした状況を紹介したうえで、あえて組織委のあり様に物申したい。この組織の硬直した思考とガバナンスの欠如である。

それを象徴する事態が6月21日に起きた。東京都などに発出されていた緊急事態宣言が蔓延防止等重点措置に移行した日の夜。橋本会長が記者会見で、競技会場で酒類の提供を検討していると述べたのだ。蔓延防止等重点措置に移行しても、酒類販売には厳しい時間制限が続くと発表されたばかりだった。「オリンピックは特別なのか」と批判が相次いだのは当然だろう。

組織委は23日、競技会場での酒類販売見送り、飲酒の禁止などを盛り込んだ観客向けガイドラインを発表し沈静化に努めたが、世間の動向を理解していない思考に驚かされた。大会スポンサー契約で、アサヒビールが競技会場等オリンピック関連施設で酒類を独占的に販売できる。そこを慮ったわけだが、アサヒビールにも批判が集まって、結局、逆効果となったのはいうまでもない。

東京2020大会はコロナ禍のなかで「特別に開く」大会である。「安全、安心」を口にするなら、平時のように行動するわけにはいかない。最悪の状況を想定した計画、柔軟な発想が必要となる。「三密」により一層気を付けるべき時に、パブリックビューイングを予定通り実施しようとした東京都オリンピック・パラリンピック準備局も同様だ。状況を考えず、何でも決められた通りに実施する硬直した思考は、非常時には捨てさるべきものだ。

「成功して当たり前」を忘れるな

折から来日したウガンダ選手団の1人にコロナの陽性反応が現れ、その後の対応に批判が集中した。選手・役員や報道陣などに行動規範「プレーブック」を示してあるからでは済まぬ、厳格な対応が改めて求められている。

組織委の対応は政府や都、スポンサーの反応をみながら小出しになる一方、後手に回り勝ちになる印象は否めない。本番を迎えるいまこそ思い切った対応が必要なときではないのか。

また、選手村での酒持ち込みやHIV感染予防を呼びかけるため1988年ソウル大会から続いているコンドームの無償配布は報道が先行、それも面白おかしく揶揄され、さらし者にされてきた。かねて批判されてきた正確な情報開示と説明不足ゆえに起きた事態だが、一方で検討段階での情報流出も相次ぐ。寄せ集め組織のガバナンスの欠如で済ませていい話ではない。改めて組織としての緊張感をいかに維持していくか、最終カウントダウンが始まった時期だからこそ重要なことである。

組織委員会は大会を成功に導くのが「当たり前」の組織である。