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2021.07.05 (月) 印刷する

震災から10年の福島・双葉町を訪ねて 奈良林直(東京工業大学特任教授)

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 7月1日に櫻井よしこ理事長の「日本国の基盤・エネルギー問題」と題する講演会に参加し、その日の午前中に双葉町長の伊澤史郎町長とハッピーロードネットの西本由美子理事長の案内で、福島第一原発の敷地に隣接する双葉町の復興状況を詳しく視察することができた。

子供たちの笑顔をコンセプトに

2011年3月11日、福島県双葉町は、東日本大震災の地震と大津波の来襲、そしてそれに続く福島第一原発の事故に見舞われた。翌12日には、半径10km圏内の避難指示が出され、町災害対策本部は全町避難を決定。さらに、菅直人首相の第一原発視察、町役場の閉鎖、1号機原子炉建屋の水素爆発が続いた。

これ以降、昨年2月まで双葉町は、全町避難の生活を強いられてきた。町中にフレコンパックと呼ばれる汚染土を入れた黒いビニール袋が積み上がっていた。このような絶望的な状況のなかで、未来の子供達のために、双葉町の国道を清掃し、桜の苗木を植える活動を続けてこられたのがハッピーロードネットの西本由美子氏である。

その西本氏の依頼により、筆者は2013年9月、チェルノブイリ原発事故のあったウクライナに地元の皆様と総勢約30名で調査に行った。チェルノブイリ原発事故ではヨウ素やセシウムが福島第一原発事故の13倍、総放射能では50倍の深刻な汚染が発生したが、その原発災害の復興モデルとして最も参考になったのが、事故後1年8カ月で建設されたスラブチッチ市であった。笑顔の子供たちの「おとぎの国」をコンセプトに、医療、幼稚園、文化事業や刺繍工場などの雇用促進などを推進した。今でも24,700人が住む。

双葉町の伊澤町長に案内いただいたJR常磐線の双葉駅では新駅舎が完成し、中心市街が形成されていた。双葉町産業交流センターや東日本大震災・原子力災害伝承館も完成、中野地区では復興産業拠点として多数の企業誘致が成功しており、真新しい工場の建設が進んでいた。

また、フレコンパックの汚染土は中間貯蔵施設に埋設され、放射性物質が付着した震災瓦礫は1棟1000億円を投入した減容化施設が国の補助金で2棟建設され、焼却・無害化されている。この施設は、全国各地で発生する集中豪雨や台風、地震などの被災で発生した震災瓦礫の減容処理のために、今後も活用したいと伊澤町長は提案している。

福島水素エネルギー研究フィールド(FH2R)前にて

隣接する浪江町では「福島水素エネルギー研究フィールド」が完成していた。新エネルギー・産業技術開発機構(NEDO)と東芝、東北電力、岩谷産業の協力の下、10メガワットの太陽光パネルで電気分解して製造した水素を、大型タンクに貯蔵、あるいは水素輸送車で出荷したり、燃料電池車の水素ボンベをストックして非常用の燃料にしたりするなどの開発が行われていた。電気分解による水素の製造効率は80%とのことで、10年間で10%も向上していた。

復興に欠かせぬ安定した電力基盤

午後3:00からは双葉町産業交流センターにて、ハッピーロードネット主催の「日本国の基盤・エネルギー問題」と題する櫻井理事長の講演会に参加した。太陽光は1日平均6時間、つまり24時間のうちの25%しか使えず、晴天率を50%とすると太陽光パネルの稼働率(設備利用率)は13%程度にすぎない。風力にしても約20%で、日照時間の制約や気象により変動する再生エネルギーだけでは安定した電力供給は得られない。

特定非営利活動法人「ハッピーロードネット」主催の櫻井理事長の講演会

世界の多くの国々では、電力供給を安定化する必要から、安全性を高めた原子力発電を再び利用する時代に向かっている。加えて、日本は石炭をガス化して発電する効率の高い火力発電所を輸出すべきだ。太陽光発電、風力発電、電気自動車に必要な鉱物資源を圧倒的に所有する中国に負けないように、我が国の国家の基盤として重要なエネルギーのあるべき姿について櫻井理事長は講演された。

筆者は、スラブチッチ市のニュータウン建設や原子力モラトリアムがもたらしたウクライナの産業と経済の破綻の実例について紹介した。会場からは福島第一原発のトリチウム処理水に関する安全性についての質問があったが、午前中、伊澤町長が、「福島第一原発が運転中には、他の原発と同様に、トリチウム水を希釈放出して、漁船も操業していた。あんなに多くのタンクが並び、更に増えていくのは双葉町にとっても復興や住民の帰還にもマイナスで、早く無くしてほしい。」とおっしゃっていたのが、印象的であった。