公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2021.07.12 (月) 印刷する

国のワクチン接種優先順位に疑問 太田文雄(元防衛庁情報本部長)

 7月3日に発生した熱海の土砂災害に際しては、警察・消防・海保・自衛隊が救難活動を行った。彼らは、生存者を背負って救出する任務を帯びている。しかし、こうした危機管理や安全保障の責に任ずる人達に対する新型コロナウイルスのワクチン接種は、優先的に行われていない。熱海の土砂災害に関しては、多くのメディアがワイドショーで取り上げていたが、この件を指摘した識者は寡聞にして知らない。大雨による水害はこれから未だ続くであろう。

災害派遣自衛官は約1割のみ

岸信夫防衛大臣は、今回派遣された自衛官360名中、ワクチン接種を1回以上受けた隊員の数は約40名であることを認めた。警察・消防・海保は推して知るべしである。

自衛隊員はオリンピック・パラリンピック支援要員として8500名が派遣されることになっているが、ワクチン接種者の割合は似たようなものであろう。

政府は、ワクチン大規模接種会場の開設や災害派遣、オリンピック支援等で自衛隊を便利屋のように使うが、それに見合った処遇を与えているとはとても思えない。

土砂災害等の救出活動であればたかが知れているが、尖閣有事あるいは台湾有事に際して即応体制となっているとは言い難い。政府は「我が国をめぐる安全保障環境は嘗てないほど厳しい」との情勢認識を示しているわりには危機感が欠如していると言わざるを得ない。

日本以外は軍人を優先

これを諸外国の優先順位と比較してみると、如何に我が国が平和ボケしているかが浮き彫りになる。筆者の防衛大学校の教え子で、現在韓国海軍大学に留学中の三等海佐は、今年5月4日に「軍人は特に優先順位が高く本日第1回目のワクチン接種を終えました」と言ってきている。米海軍士官学校の交換教官も5月18日に「今週からワクチン接種者はマスク不要となり、コロナに係る状況は改善に向かっています」とメールしてきている。

自衛隊員はこうした同盟・友好国の兵員と、いざという時には肩を寄せ合って(Shoulder to shoulder)で作戦行動を共にしなければならないのである。

現に、5月中旬には鹿児島県の霧島演習場で陸上自衛隊と米海兵隊、フランス陸軍が離島奪還のシナリオで共同演習を行った。6月下旬から7月上旬にかけては北海道の矢臼別演習場など国内各地で陸上自衛隊と米陸軍がオリエント・シールド(東洋の盾)と称する日米共同訓練を行った。近々、英空母「クイーン・エリザベス」搭載の米海兵隊機F-35Bが、飛行甲板の改修を終えた海自の護衛艦「いずも」に発着艦訓練を行うかもしれない。当然、同盟・友好国の兵員は全員がワクチン接種を済ませている。

ワクチン接種を済ませていない自衛隊員と共同訓練を行う同盟・友好国の兵員は不安を抱いたまま訓練に臨むであろう。これでは強固な同盟もQUADを主とする友好国との結束もあったものではない。